研究課題
①ドナーラットより採取した脂肪幹細胞を肛門機能不全ラットの肛門周囲へ投与し、一定期間肛門内圧を測定する。最後に犠牲死させ、肛門周囲の組織からドナー由来の細胞を検証する。②肛門機能不全ラットの肛門周囲に脂肪幹細胞を直接注入し、さらには肛門周囲へ電気刺激を加えた肛門内圧の改善を観察する。③臨床にて肛門温存手術を受けた患者のうち、排便障害のある症例に対して十分なインフォームドコンセントを行った上で、肛門周囲組織へ自己脂肪由来幹細胞の移植を行う。腹部皮下あるいは大腿部の脂肪組織を吸引法にて採取し、閉鎖回路を用いて脂肪由来幹細胞のみを採取・濃縮させ、それを肛門周囲組織へ移植する。術後、創部の安定したころより電気刺激による肛門部リハビリを開始し、定期的に肛門機能の評価を行う。平成29年度は上記①に取り組み、長期間にわたり安定した肛門機能不全ラットモデルを作成することができた。さらに脂肪幹細胞を注入したところ、肛門内圧が上昇し肛門機能の改善が認められた。しかし、HE染色やαSMA染色などにより再生した筋組織の解明には至らなかった。結局のところbulking効果を示すような組織が存在している可能性がある。平成30年度は肛門機能改善を目指し、脂肪幹細胞をシート状にして塗布した試みを行った。この実験でも肛門内圧の上昇を示すことができたが、筋組織再生の証明には至っていない。注入した脂肪幹細胞により、レシピエントに残存している筋組織が肥大していることが考えられた。令和1年度では、脂肪幹細胞からの筋再生が証明できていないため、人への応用が難しいと判断し、筋を肥大させ肛門括約筋機能を上昇させる研究へ方向転換した。ラットモデルを用いて電気刺激による肛門内圧上昇を試みる動物実験を行った。令和2年度からは、ヒトへの応用を試みる予定であったが、コロナ感染拡大の状況の中、研究はあまり進展がみられていない。
4: 遅れている
理由当初、脂肪幹細胞を用いて肛門括約筋を再生させ、肛門機能の改善を試みる研究を開始しており、動物による研究の後、ひとへの応用を目指す計画で研究を行っていた。肛門機能不全ラットを作成し、脂肪幹細胞による筋再生を試みたが、肛門機能の改善は確認できたものの、実際の組織を確認したところ組織の再生を証明するには至っていない。よって、この脂肪幹細胞によるヒトへの応用研究へ進んでいないのが研究が遅れている一番の原因である。肛門機能を再生させる目的のため、方針を転換して肛門の筋を肥大させることとした。同じ、肛門機能不全ラットを用いて、電気刺激による肛門括約筋肥大の研究を開始した。動物実験では肛門内圧の上昇を認め、電気刺激による機能改善が期待できるところまで来ている。今後は、肛門機能が低下したヒトに対し、電気刺激による臨床研究へ進む予定であったが、令和2年からのコロナ感染症拡大の影響もあり研究が止まった状態が2年続いている。
動物研究においては、我々が確立した肛門機能不全モデルラットが安定して使えるようになっており、電気刺激にて肛門機能改善することが証明されて論文として投稿された。ヒトへの実用へ向けて臨床研究を行いたいところであるが、実際の病院リハビリ室などを使用するにあたり、コロナ感染症の影響があると難しいところである。コロナ感染の社会情勢が改善したところで再開予定である。
令和2年度からのコロナウイルス感染拡大のために、患者対応が難しい状況となり、機器購入なども行わなかった。また、学会出張なども全て当地からウェブ参加であり、交通費などの出費もなかった。コロナ感染状況の改善をみて、経費を利用する予定である。
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Scientific Report
巻: 11 ページ: 16260
10.1038/s41598-021-95923-6