研究課題
Wntシグナルは様々な癌腫において活性化している事が知られており、標的遺伝子発現の増幅、 細胞増殖、細胞運動などを調節している。RNF43は Wntシグナルを抑制する癌抑制遺伝子であり、RNF43は大腸癌をはじめとした様々な癌腫でmutationや発現低下が報告されている。我々は本研究において大腸がん切除検体、大腸がん細胞株、RNF43 knockout マウスを用いて消化管上皮および大腸腫瘍進展における RNF43発現意義を明らかにすることを目的とした。その結果RNF43 mutationは右結腸に多く、BRAF mutationと密接に関与しており、RFSが有意に短いことが明らかになった。またRNF43 mutationがあると細胞増殖が亢進し、腫瘍の発育進展にかかわることを明らかにした。大腸癌においてAPCやβ-cateninのmutationを介した増殖・進展機構に関する報告は数多く認めるが、RNF43 knockout mouseを用いた実験ではRNF43単独の機能喪失でも腫瘍の増大に関わることが明らかとなった。またマウス腸管からorganoidを作成し、RNF43がorganoid形成に及ぼす影響についても比較検討を行い同様の結果を得た。real-time qPCRを用いたWnt下流遺伝子のmRNA発現解析では、ほぼすべての下流遺伝子においてmRNA発現が亢進していた。以上の研究結果をまとめ、Journal of Pathologyに投稿し2018 245:445-455に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
熊本大学の臨床および基礎研究室、それぞれの研究組織が得意とする研究手法を活かした共同研究を展開する事が出来ている。臨床検体を用いた予後解析に加えてin vitroでの解析、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子改変マウスを用いた腫瘍発育進展の評価も終了した。合わせてWnt下流遺伝子のmRNAレベルの解析も行いWntシグナル活性の評価も行った。さらに昨年度の科研費実施状況報告書において今後の研究課題であったAPC遺伝子などの遺伝子変異との関連についても評価を行った。本研究の成果は2018年にJournal of Pathologyに掲載された。
これまでの研究により、RNF43が腫瘍増殖にかかわり、また腸管幹細胞においてもRNF43欠失は腫瘍増大に関与することが明らかとなった。これまでにAPCなど大腸癌に関わる遺伝子変異との関係性については評価を行ったがその分子論についてはまだ解明できていない。今後は分子論の解明に加えてRNF43ノックアウトマウスを用いてRNF43関連分子阻害剤による腫瘍増殖抑制効果について検討を行っていく予定である。
試薬、消耗品費については、医局保管の物を使用する事が出来た。情報収集ならびに研究成果を発表する為の学会出張旅費に充てたいと考える。
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The Journal of Pathology
巻: 245 ページ: 445~455
10.1002/path.5098