研究課題/領域番号 |
17K10640
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宮本 裕士 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (80551259)
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研究分担者 |
坂本 快郎 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (00452897)
石本 崇胤 熊本大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (00594889)
馬場 祥史 熊本大学, 医学部附属病院, 特任講師 (20599708)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸癌 / カヘキシア / Activin/Myostatin経路 / Activin A / 骨格筋量 |
研究実績の概要 |
2008年から2012年の大腸癌切除検体157例の凍結標本を用いて、癌部、非癌部におけるActivin Aの発現をreal-time PCRにより評価した。その結果、癌部においてはActivin Aが高発現であり、非癌部ではほとんどみられないことがわかった(p<0.001)。また、癌部におけるActivin Aの発現量を中央値で2群に分けると、高発現群では有意に予後不良であった(5年生存率; 高発現群: 63.8%、低発現群: 79.2%、p=0.037)。OSに関する多変量解析では、Activin Aの高発現は年齢(75歳以上)とともに独立した予後不良因子であった(p<0.05)。 次に、上記対象についてActivin Aの免疫染色を行った。Activin Aは腫瘍細胞の細胞質で強く染色され、癌細胞自体から分泌されていることが示唆された。 また、大腸癌患者における骨格筋量を術前CTを用いて計測した。評価は腰椎L3領域の骨格筋面積(cm2)/身長2(m2)で行い、低骨格筋量は予後不良に関与していたが(p<0.05)、Activin Aの癌部での発現と術前骨格筋量との間に有意な相関はみられなかった(R2=0.020, p=0.73)。 Real-time PCRの結果、Activin A高発現は、大腸癌患者の予後不良因子であった。現在、当科保有の大腸癌細胞株を用いて、in vitroの実験を行なっている。まず、Activin Aが腫瘍細胞の細胞膜に存在する受容体に作用し細胞増殖に関与するという仮説の下、Activin Aのリコンビナントタンパク(R&D Systems)を大腸癌細胞株に添加し、増殖能の変化を調べる実験を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①腫瘍組織におけるActivin A高発現は、大腸癌患者の予後不良因子であった。しかし、Activin Aの発現量と大腸癌患者の骨格筋量との間に有意な相関はみられなかった。カヘキシアは複合的な代謝異常による臓器機能不全を示す病態であるが、多くの患者が骨格筋低下を特徴とするサルコペニアを伴う。カヘキシアに関与する遺伝子を解析する本研究において、Activin/Myostatin経路の遺伝子が大腸癌患者の骨格筋量に影響を与えることを証明するデータがない。 ②Activin Aが大腸癌の発育・進展におよぼす機序について解明する。In vitroの実験で、Activin Aが大腸癌細胞株の増殖に与える影響を評価しているが、現時点で有意な結果が出ていない。
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今後の研究の推進方策 |
①Activin Aと大腸癌切除検体における発現解析を継続する。当科の凍結標本は300症例以上存在するためさらにRNA抽出を行い、real time PCRによりActivin Aの発現を評価し、臨床病理学的因子、予後との解析を行う。 ②腫瘍組織のActivin A発現量は骨格筋量と有意な相関がなく、さらに血中Activin A濃度を評価することが必要であると考える。大腸癌術前症例における血中Activin A濃度を、ELISAを用いて測定する。上記症例において使用可能な血清約100症例を用いて、血中Activin A濃度と骨格筋量を含む臨床病理学的所見、予後との関連を解析する。 ③In vitroの実験では、現在行っている増殖能に関する実験(growth assay)を継続する。現時点でActivin Aが大腸癌細胞癌に与える影響について有意な結果は出ていないが、様々な条件、細胞株でgrowth assayを行う予定である。有意な結果が出ればActivin Aの添加によって増加するActivin/Myostatin経路の遺伝子をRNA sequence解析によって調べる。 ④③によってActivin/Myostatin経路に関わる他の遺伝子が、腫瘍細胞の増殖に有意な影響を及ぼしていれば(発現が亢進していれば)、その遺伝子の発現をreal-time PCRによって評価する。また、その遺伝子の発現量と大腸癌患者の骨格筋量を含む臨床病理学的因子や予後との関連を解析する。 ⑤臨床検体を用いた実験の結果、Activin A高発現は、大腸癌患者の予後不良因子であった。しかし、Activin Aが大腸癌の発育・進展におよぼす機序については報告がない。その機序を解明するため、In vitroにおいて、浸潤能や遊走能についても評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:医局内保管の試薬・消耗品を使用することができたため。 使用計画:主に実験試薬、消耗品の購入に充てたいと考える。また、研究成果発表および情報収集のための旅費、実験データの管理、資料整理等のため事務補佐員の雇用経費にも充てたい。
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