研究課題
タンパク翻訳後の糖鎖修飾機構は発癌や癌の進展に極めて重要である。例えば糖鎖構造シアリルルイスA (CA19-9)は、癌細胞表面に発現し細胞間接着を介して転移を促進するとされ、血清CA19-9の高値は肝転移や臨床転帰と相関する。CA19-9をはじめ、日常臨床で使用されている血清腫瘍マーカーの多くは糖鎖構造の一部を認識するモノクローナル抗体を用いたものである。一方、近年のオミクス研究の進歩に比較し、糖鎖研究にはいまだ大きな壁がある。糖鎖は単一の遺伝子DNAにコードされているわけではなく、多数の糖鎖関連遺伝子に由来する酵素群により合成され、さらに細胞表面のタンパク質・脂質など種々のキャリア上で多彩な分枝構造をとるため、その配列や構造を解析することは至難である。したがって、その複雑さが糖鎖研究の大きな壁となっている。糖鎖構造が癌細胞の機能的特徴を規定し得るため、糖鎖遺伝子の発現プロファイルが、大腸癌細胞の機能、個々の大腸癌の臨床的特徴や臨床転帰に直接関連すると考えている。また大腸癌には大きく2つの発癌経路が知られており、85%は古典的なadenoma-carcinoma sequence(染色体不安定性、APC・KRAS変異、P53不活化、18q Loss、TGF-β-SMAD系異常)、残り15%がマイクロサテライト不安定型(ミスマッチ修復欠損、BRAF変異、CIMP)とされる。本研究は、これらのゲノム・エピゲノム異常と糖鎖よる大腸癌サブグループの同定を目的としており、バイオインフォマティクス、組織切片での検討、癌細胞株を用いたin vitro実験、細胞膜タンパクフラクションを用いたレクチンマイクロアレイなどを通して大腸癌における糖鎖の意義について独自の方法によりアプローチする。大規模な網羅的糖鎖関連遺伝子発現解析と細胞株を用いた予備的解析に着手している。BRAF遺伝子変異、メチル化と関連する糖鎖遺伝子候補を抽出しつつあり、この機能解析を試みている段階である。
2: おおむね順調に進展している
糖鎖に関連するオミクスデータの集積が順調であり、いずれも予備的段階ではあるが、候補遺伝子の抽出やその機能解析実験系の確立ができつつある。
候補遺伝子の機能解析、臨床的意義の解析を順次進めていく。また解析対象となる症例のサンプル収集と処理、臨床データの収集を同時並行して進める。
本研究テーマは当研究室で取り組んでいたもののひとつであるため、細胞実験や免疫染色などの一般試薬、消耗品がある程度揃っており、本研究の予備実験段階においては新規の購入に対する物品費が生じにくかったこと、また当該年度はPC上での網羅的データ解析作業・候補の抽出が主体であったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は細胞実験や臨床サンプル処理のための各種物品費に充当する。
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