研究課題
タンパク翻訳後の糖鎖修飾は発癌や癌の進展に極めて重要である。糖鎖は単一の遺伝子DNAにコードされるわけではなく、多数の糖鎖関連遺伝子に由来する酵素群により合成され、さらに細胞表面のタンパク質・脂質など種々のキャリア上で多彩な分枝構造をとるため、その配列や構造を解析することは至難である。その複雑さが糖鎖研究の大きな壁となっている。糖鎖構造が癌細胞の機能的特徴を規定し得るため、糖鎖遺伝子の発現プロファイルが、大腸癌細胞の機能、個々の大腸癌の臨床的特徴や臨床転帰に直接関連すると考えている。大腸癌には大きく2つの発癌経路が知られており、85%は古典的なadenoma-carcinoma sequence(染色体不安定性、APC・KRAS変異、P53不活化、Loss of 18q、TGF-βーSMADシグナル異常)、残り15%がマイクロサテライト不安定型(ミスマッチ修復欠損、BRAF変異、CIMP)とされる。本研究は、これらのゲノム・エピゲノム異常と糖鎖よる大腸癌サブグループの同定を目的としており、バイオインフォマティクス、組織切片での検討、癌細胞株を用いたin vitro実験、細胞膜タンパクフラクションを用いたレクチンマイクロアレイなどを通して大腸癌における糖鎖の意義について独自の方法によりアプローチする。大規模な網羅的糖鎖関連遺伝子発現解析と細胞株を用いた機能的解析に着手している。ミスマッチ修復欠損、BRAF遺伝子変異、P53変異、メチル化と関連する糖鎖遺伝子候補を抽出しつつある状況である。本研究では、各種検討の結果として、癌抑制遺伝子TP53に着目し、フコース転移酵素発現異常の臨床的意義について検討を進めている。さらにO型糖鎖修飾のコアとなるTn抗原に着目している。
2: おおむね順調に進展している
大規模な糖鎖遺伝子発現プロファイルから、複数の候補糖鎖遺伝子ないし糖鎖遺伝子セットを抽出し、糖鎖遺伝子を用いた分子サブタイプの同定やその臨床的・機能的検証を行い一定の成果を得ている。
フコース転移酵素や短縮型糖鎖構造について、免疫組織学的検討や背景の分子メカニズムの検討を進める。
本研究テーマは当研究室で以前から取り組んでいたものに関連しており、抗体などの一般試薬、消耗品や臨床検体がある程度研究室内に揃っており、本研究の予備実験段階においては新規の購入に対する物品費が生じにくかったことなどから次年度使用額が生じた。次年度使用額は細胞実験などの各種物品・消耗品費に充当する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: 9081~9081
10.3390/ijms21239081