研究課題
タンパク質をコードする遺伝子領域以外の非コードDNA領域の割合はヒトでは全ゲノムの98%にも達するが、その大半がnon-cording RNAに転写されている。近年、分化,がん化,アポトーシスや細胞老化に関与する癌関連long intervening noncoding RNA (lincRNA)が多数報告されている。われわれは先行研究で大腸癌の遺伝子発現マイクロアレイによるPublicデータベースからのin silico解析および臨床検体を用いたreal time PCR解析から、大腸癌の予後に深く関連することが予測されるlincRNAとしてX染色体上のXq13.2に存在するFTXを同定し、本研究ではFTXの腫瘍発生における機能解析および大腸癌のバイオマーカー、治療標的としての可能性を検証している。大腸癌におけるFTXの機能解析ではsiRNAによるFTXのノックダウンで細胞増殖能の抑制(WST assay)および浸潤能の抑制 (Invasion assay)が誘導されることを示した。にFTX高発現群は悪性度が高く有意に予後不良であった。FTXは大腸正常粘膜ではほとんど発現が見られず、また大腸癌組織において発現上昇が見られる症例でもその多くはわずかな発現上昇とどまっていた。したがってさらに微量RNAの発現およびわずかな差を検出可能なシステムが必要と考えられ、より検出感度の高いdigital PCRを用いた定量解析を施行中である。大腸癌原発巣におけるheterogeneityとFTX発現について、原発巣3ヶ所ずつから組織を採取、がん関連151遺伝子を標的とした遺伝子パネルを用いた変異解析、281の特異的抗体を用いた逆相タンパクアレイを施行し、腫瘍部位別のFTX発現の差およびFTX発現が大腸癌発生や不良な予後に影響するメカニズムを検証中である。
2: おおむね順調に進展している
大腸癌におけるFTXの機能解析ではsiRNAによるFTXのノックダウンで細胞増殖能の抑制(WST assay)および浸潤能の抑制 (Invasion assay)が誘導されることを示した。大腸癌組織のバルクサンプルから抽出したRNAを用いた遺伝子発現解析 (TaqMan PCR)では、先行研究と同様にFTX高発現群は悪性度が高く有意に予後不良であった。FTXは大腸正常粘膜ではほとんど発現が見られず、また大腸癌組織において発現上昇が見られる症例でもその多くはわずかな発現上昇とどまっていた。したがってさらに微量RNAの発現およびわずかな差を検出可能なシステムが必要と考えられ、より検出感度の高いdigital PCR (QuantStudio 3D digital PCR system, ThermoFisher Scientific社)を用いた定量解析を行い、real time PCRで検出されなかった症例でも正常組織と比較してFTXの発現が見られる症例が存在していた。FTXの微量な発現が大腸癌の悪性度に寄与している可能性が示唆されたが、大腸癌原発巣における全細胞(全領域)がサンプル採取部位と同等のFTX発現を示すとは考えづらく、大腸癌原発巣におけるheterogeneityとFTX発現について解析している。大腸癌12例14腫瘍で原発巣3ヶ所ずつから組織を採取し、がん関連151遺伝子を標的とした遺伝子パネルを用いた変異解析、281の特異的抗体を用いた逆相タンパクアレイを施行した。3ヶ所の組織採取部位で共通する変異 (Clonal mutation)は78.6% (11/14)で見られたが、すべての腫瘍で1あるいは2採取部位にのみに見られる変異 (Subclonal mutation)が確認された。これらの変異情報のある部位別のFTX発現を検証中である。
今年度の目標として大腸癌原発巣のheterogeneityとFTX発現の関係を明らかにする。前述のごとく遺伝子変異情報が明らかな部位別サンプルを用い、遺伝子変異数が多い、変異アリル頻度が低い、subclonal変異を持つ部位は、同一腫瘍内の他の採取部位と差別化されまた時間的に後期に出現した可能性が考えられる。それぞれの部位におけるFTX発現の微量な差異を比較し、FTX異常発現が大腸癌進展過程のどの段階で生じるのかを検討する。FTXの機能や標的分子、Pathwayは不明であるが、各腫瘍3ヶ所ずつのタンパクアレイ解析も施行済みであり、genetic heterogeneity, FTX発現状態、タンパク発現状態から、FTX発現上昇が大腸癌発生や不良な予後に影響するメカニズムを明らかにする。FTXの遺伝子領域にはmiR-374a, miR-374b, miR-421, miR-545など複数の癌との関連が報告されるmicroRNAが存在しているが、ごく最近gliomaでmiR-342-3pがFTXのnegative regulatorであるとの報告もされている。このようなFTX発現を調節するmicroRNA、反対にFTXが制御するmicroRNAの探索も行っていく予定である。研究室では患者採血検体を用いた癌診断、予後診断、治療効果判定も重要なプロジェクトとしている。3部位からの組織採取と血液検体採取を行っている症例は70症例以上にのぼる。血漿中の癌細胞由来のDNA (Circulating tumor DNA)の解析からliquid biopsyに関する多くのノウハウを有しているが、FTX発現は正常大腸組織では発現が見られないことから、血中のFTX発現定量による大腸癌診断・予後診断というliquid biopsyの可能性についても検討したい。
前年度末時点では遂行中の研究に必要な試薬や物品は現有されていた。生じた残額は今年度購入予定の使用直前での購入が望ましいと思われる細胞実験関連試薬、抗体類に使用する予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Surgical Case Reports
巻: 3 ページ: 1-5
10.1186/s40792-017-0367-2
Surgical Endoscopy
巻: 32 ページ: 391~399
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Supportive Care in Cancer
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Diseases of the Esophagus
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10.1093/dote/dow007