研究課題/領域番号 |
17K10649
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
堀江 久永 自治医科大学, 医学部, 教授 (20316532)
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研究分担者 |
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
鯉沼 広治 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382905)
山口 博紀 自治医科大学, 医学部, 教授 (20376445)
井上 賢之 自治医科大学, 医学部, 助教 (80375279)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 免疫放射線療法 / abscopal effect / 直腸癌 / 肺転移 / LuM1 |
研究実績の概要 |
固形癌の退縮には宿主免疫が強く関与していることが明らかとなり、放射線に免疫チェックポイント阻害薬を併用することでより強い抗腫瘍効果を得ようとする試みがなされている。進行直腸癌に対する術前放射線化学療法は局所制御には有効であるが、遠隔転移には効果がない。これまでに、自然肺転移をきたすマウスモデルを用いて局所の放射線治療に免疫チェックポイント分子PD-1に対する阻害抗体を付加することで、非照射部の肺転移の数をも抑制する傾向を認めているが、単独では有意差には至らなかった。そこで、異なる免疫抑制物質アデノシン阻害による免疫療法と放射線療法の併用を視野に入れた検討を行い、以下の新規知見を得た。 1.In vivo実験に用いるマウス大腸癌細胞LuM1は親株Colon26に比べて、膜型アデノシン産生酵素CD39, CD73の発現が強く、放射線照射によりさらに発現が増強される。マウスの脾細胞のうち、CD39はほとんどのB細胞に強く発現しているのに対し、CD73はT,Bの一部の細胞に発現しており、LuM1皮下腫瘍および所属リンパ節中のリンパ球でその発現が増強している。 2.ヒト直腸癌の放射線照射後の組織の免疫染色にて、CD73はがん細胞と間質細胞に発現しており、両方で発現の強い症例で予後が悪かった。 3.LuM1皮下腫瘍を作成、局所照射後のアデノシン濃度をLC-MSを用いて測定し、有意な上昇を認めた。同モデルにて、皮下腫瘍照射にCD73阻害抗体および酵素阻害薬APCPの全身投与を併用し、非照射の肺転移巣が有意に減少することを確認した。 以上の結果から、放射線照射後の腫瘍組織内ではアデノシン産生が亢進しており、これが局所の免疫応答を抑制することを介して照射の抗腫瘍効果を制限している事が推測された。照射にアデノシン阻害を付加した免疫放射線療法は、局所のみならず遠隔転移病変をも抑制する効果を発揮する可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス大腸癌細胞colon26のサブクローンLuM1を用いて自然肺転移をきたす動物モデルを作成、腫瘍局所に限局した放射線療法を施行し、非照射部の肺転移の成立に対する影響を検討するIn vivoに実験系を確立した。また、放射線に抗PD-1抗体を併用する事で、肺転移の抑制傾向が認めたことから、この実験系を採用することによってAbsopal effectを評価できることが確認できた。しかし、PD-1抗体単独では有意差に至る効果が得られなかったため、より効果的なabscopal effectを得る目的で、強力な免疫阻害活性を有するアデノシンに着目した検討を行い、その産生経路に関わるCD39, CD73の発現が照射によって増強する傾向があり、照射によってアデノシン濃度産生が亢進していることを示唆する基礎的データが確認できた。照射腫瘍内のアデノシン濃度を測定するとともに、CD73阻害抗体および阻害薬を併用したIn vivo実験を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
アデノシン産生酵素の発現が誘導される事実は、照射で一部の癌細胞が障害されれば、いわいる「がん抗原」が多量に放出され、宿主の免疫応答が惹起され、微小転移を制御することが可能であるというシナリオの中で、アデノシンの免疫抑制作用が重要な役割を果たしている事を強く示唆すると思われる。そこで、この動物実験システムで、放射線にアデノシン阻害治療を組み合わせることで、In vivoで有効なabscopal effectが誘導されるかどうか?を確認することを最終目標とする。さらに、それぞれの個体から、皮下腫瘍、所属リンパ節、末梢血、脾臓、肺の各組織内に存在する免疫細胞を採取し、そのフェノタイプ、細胞機能、アデノシンの産生系酵素CD39、CD73の発現状況、放射線による変化などをIn vitroで解析することにより、Abscopal効果の発現するメカニズムを明らかにする。また、ヒト直腸癌におけるCD73の発現形態をより多くのサンプルで検討し、予後との関連性を追求することで、このセオリーがヒトにも外挿可能かどうかも明らかにしたい。以上の結果から、実臨床への応用を目指して、最も実用性の高いと考えられる治療プロトコールを見出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り使用している。未使用額545円については、来年度消耗品費として使用予定である。
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