研究課題
大腸癌の個別化治療をより厳密におこなうことは、治療効果の改善、副作用軽減および医療費削減の点から重要である。我々は本研究課題で、糞便、唾液、血液といった体への負担が少なく頻回検査が可能なサンプルを用い、癌の予測診断、早期診断、再発予測診断として有用な新たな診断法の開発を目指す。今年度は、まず、採取した糞便の保存方法から腸内細菌叢の16Sメタゲノム解析まで、一連の実験系を確立した。保存方法として、これまで推奨されていた凍結保存と当科で改良した保存法を比較検討し、微生物の増殖を抑えたより簡便で信頼性の高い保存法を組み立てた。さらに、腸内細菌の細胞壁の破壊方法から、DNAの抽出、16SrRNAの遺伝子増幅および次世代シークエンスの解析にいたるまでの最適な実験条件を確立した。これらの新たに確立した手法で、大腸癌、炎症性大腸炎および健常人の腸内細菌叢の遺伝子解析結果を比較検討した結果、バクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属、クロストリジウム属、エシェリシア属の中に、大腸癌に特徴的なパターンを確認することができた。次に、大腸癌のcell-free DNAの再発予測因子としての有用性を検討した。まず各症例の腫瘍組織における遺伝子変異部位を特定するために、次世代シークエンスによる測定を開始した。さらに、糞便および血漿中のtumor-free DNAの抽出およびデジタルPCRを用いた変異遺伝子検出の測定系を検討した。今後は、糞便中腸内細菌叢のパターン変化による大腸癌早期診断およびtumor-free DNAの変化と転移・再発との関連性を明らかにする予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的は、まず糞便を用いて腸内細菌叢の遺伝子解析をするまでの実験の至適条件を検討することであった。これらの至適条件のもとで、大腸癌、大腸炎症性疾患および健常人で糞便中の腸内細菌叢のパターンを検討し、大腸癌に特徴的なパターンを確認することができた。さらに、大腸癌変異遺伝子をマーカーとした、血漿および糞便中のtumor-free DNA測定系の構築を目指した。今後は、これらの測定系を用いて、大腸癌の非侵襲的な早期診断および早期再発予測診断の確立を目指す。
今後は、大腸癌の症例数をさらに加え、腸内細菌叢の癌早期診断に果たす役割を明らかにする。さらに、糞便以外の低侵襲性サンプルとして唾液や血液を用い、tumor-free DNAによる大腸癌の再発予測診断および治療効果モニタリングマーカーとしての有用性を検討する。腸内細菌叢のパターン変化とtumor-free DNAの結果から、総合的な大腸癌の早期診断、早期再発予測、治療効果予測法の確立を目指す。
腸内細菌叢の遺伝子解析に関する試薬類をまとめて購入することにより、予定よりも価格を抑えることができたため次年度使用額が生じた。これらの研究費は、今後のサンプル保存、デジタルPCRや次世代シークエンスの測定費用などにあてる予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (26件) (うち査読あり 26件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (69件) (うち国際学会 8件) 図書 (2件)
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