研究課題
本研究課題では、糞便、唾液、血液といった体への負担が少なく頻回検査が可能なサンプルを用い、腸内細菌叢の16Sメタゲノム解析による、大腸癌の新たな診断法の確立を目指し研究を行ってきた。化学療法剤と分子標的薬の治療前後の、tumor-free DNAやmicroRNAの変化から、治療効果予測マーカーとしての有用性を検討した。一方、糞便中腸内細菌叢のパターン変化による大腸癌早期診断およびtumor-free DNAの遺伝子変化と転移・再発との関連性を検討し、さらに、化学療法剤と分子標的薬の治療前後の、腸内細菌叢のパターンの変化から、治療効果予測マーカーとしての有用性を検討する予定であったが、遺伝子解析を担当する共同研究者の死亡により腸内細菌叢の遺伝子解析が困難となった。そこで、検討するマーカーの対象を広げ、腫瘍の遺伝子解析や病理組織学的所見、炎症性マーカーを用いた予後分析、抗癌剤の効果への影響の分析を行った。遺伝子変異によって、大腸癌の予後予測が可能であるばかりでなく、術後補助化学療法の有効性についても効果予測可能であることが示唆された。また、遺伝子変異に加えて病理組織学的変化が放射線化学療法の効果予測に有効であるかを、免疫染色などの手法を加えて解析し、有用性が示唆された。さらに、CRPなどの炎症性マーカー、アルブミンなどの栄養指標マーカーなどを遺伝子変異や病理組織学的所見などと組み合わせることにより、大腸癌術後の予後予測や、薬物療法の効果予測が可能であることが示唆された。近年、大腸癌の予後や抗癌剤の有効性について、右側大腸癌と左側大腸癌において異なることが示されているが、炎症性マーカーや栄養指標を用いた検討においても、そのような差異が認められた。個別化治療に着目した検討を進める中で、共同研究により、大腸癌肝転移、Stage I~IIIの大腸癌についての予後分別を従来のStagingとは異なる視点で分析し、新しい病期分離として提案した。
3: やや遅れている
本年度の目的は、糞便中腸内細菌叢のパターン変化による大腸癌早期診断およびtumor-free DNAの遺伝子変化と転移・再発との関連性を明らかにし、化学療法剤と分子標的薬の治療前後の、腸内細菌叢のパターンの変化およびcell-free DNAの変化から、治療効果予測マーカーとしての有用性を検討することであったが、遺伝子解析を担当する共同研究者の死亡により腸内細菌叢の遺伝子解析が困難となった。さらに、コロナウイルス蔓延の状況から、代替職員の雇用や共同研究者の参入も困難であった。腸内細菌叢等に関する集積データを検討したが、有意な結果を得るには不十分であった。そのため、tumor-free DNAやmicroRNAとともに、炎症性マーカーや大腸癌の遺伝子変異などを加えて、予後予測因子や抗癌剤の治療効果予測マーカーの分析を行うこととした。
遺伝子解析を担当する共同研究者の死亡により、腸内細菌叢の遺伝子解析が困難となり、既存のデータと転移・再発との関連性の検討も行ったが有意義な結果を得ることは難しい状況となった。そこで、研究期間をさらに1年延長した。今後は、tumor-free DNAやmicroRNA、遺伝子変異、炎症性マーカーなど、既存データばかりでなく、より多くの予後因子に着目し、リスク因子を組み合わせることによって、化学療法剤や分子標的薬の治療効果モニタリングマーカーとしての有用性を検討する。これら多様なマーカーを用いた大腸癌予後予測、抗癌剤効果予測により、より総合的で非侵襲的な大腸癌における個別化治療システムを検討する。
遺伝子解析を担当する研究分担者(飯沼)が急死した後、コロナ渦などもあり後任の採用が困難な状況となり、測定等を行うことができず、交付金の使用が進まなかった。また、コロナ渦のために学会等での発表も困難であり、開かれてもweb開催がほとんどであり、学会関連費、交通費、宿泊費の使用も進まなかった。コロナ渦がいまだに解決されていない状況であるので、蓄積データの解析を進め、解析に必要な統計ソフト、コンピュータの購入。研究の論文化に必要な校正費や掲載料として使用する予定である。
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