本研究は潰瘍性大腸炎(UC)患者に対する癌化ハイリスク症例の選別のための 診断・治療に有用だと考えられる変異KRAS制御シグナルとオーバーラップする ポジティブフィードバック(PF)因子を同定することによりColitic Associated Cancer (CAC)の早期診断・治療など臨床応用へと展開するための研究基盤を確立することを目的とした。 今回の科研費研究にて、手術標本からcDNAマイクロアレイ解析を行った。sporadic大腸癌患者の切除標本から①正常大腸粘膜組織、②大腸癌組織、癌合併潰瘍性大腸炎患者の切除標本から③肉眼的な正常粘膜組織、④炎症部位組織、⑤癌組織 を用いた。③と比較して⑤にて発現が増強しているが、①にくらべ②で発現が増強していない物質を検討したところ、Claudin 2、Carcinoembryonic Antigen Related Cell Adhesion Molecule 6 (CEACAM6)、Chitinase 3-like1(CHI3L1) 、Phosphodiesterase 4 (PDE4)などが抽出された。これらは、接着性侵襲性大腸菌の活動に関わりCDの炎症悪化した腸管の環境下に発現が増強する蛋白質である。申請者らは、UC上記⑤の組織において、CEACAM6とE.coli由来のLipopolysaccharide(LPS)が同じ部位に発現していることを確認した。 PDE4はTNFαやINFγなどの炎症性サイトカインを誘導する。PDE4阻害剤やshRNAにより3次元培養変異KRAS陽性細胞塊の内腔のアポトーシスを誘導し、PDE4が癌化において重要な変異KRASシグナルであることが示された。臨床検体においてPDE4の高発現はステージや予後と相関しており、変異KRASシグナルの活性化が炎症促進に重要であることが示唆された。
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