研究課題/領域番号 |
17K10661
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保木 知 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (50571410)
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研究分担者 |
野島 広之 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (10507320)
酒井 望 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (70436385)
大塚 将之 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90334185)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Pin1 / 高齢肝 / 肝再生 / NF-kappaB-p65 / STAT3 / 微小循環障害 |
研究実績の概要 |
昨年度までに肝外胆管切除を伴う拡大肝切除術後において高齢患者では術後早期から6ヶ月の長期にわたり残肝の肝再生は抑制され、術後重症合併症が有意に増加したこと、マウスモデルにて高齢マウスの残肝におけるNF-kappaB活性不全が高齢肝における肝再生抑制に関与している可能性があることを示してきた。我々は以前より肝切除後のNF-kappaB活性亢進を誘導する主要な因子としてPin1に着目しており、本年度は高齢残肝におけるPin1発現低下が高齢マウスにおける肝切除後のNF-kappaB活性不全や肝再生抑制に及ぼす影響を検討した。若年マウスでは肝切除後にPin1発現が増強するためにPin1-NF-kappaB-p65 complexが産生増強する結果、NF-kappaB活性が亢進して肝再生が促進された。しかし、高齢マウスでは肝切除後の残肝にてPin1発現が減弱するため、Pin1-NF-kappaB-p65 complexを産生することができず、NF-kappaB-p65 (Ser276)のリン酸化を誘導できないためにNF-kappaBを活性化できず、結果として肝再生が抑制されることが示された。更には、NF-kappaBと並ぶ肝再生を促進する転写因子として知られるSTAT3もPin1の標的蛋白であるが、若年マウスでは肝切除後にPin1発現が増強するためにPin1によりリン酸化されてSTAT3活性亢進の指標となるp-STAT3 (Ser727)発現が増強し、STAT3活性が亢進する結果、が産生増強する結果、肝再生が促進されるが、高齢マウスではPin1発現低下によりp-STAT3 (Ser727)発現が減少し、STAT3活性不全が誘導される結果、肝再生抑制が生じることが証明された。高齢肝における肝切除後には酸化ストレス障害に伴う微小循環障害が生じることがPin1発現低下の一因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は臨床データを用いて、肝外胆管切除を伴う拡大肝切除術後において高齢患者は若年患者と比較して、術後早期から6ヶ月の長期にわたり残肝の肝再生が抑制され、その結果、術後重症合併症の発症が増加することを報告した。これらの臨床データを基にして、本年度はマウスモデルにて高齢肝の肝再生遅延機序を解明することを目標とした。高齢マウスの残肝において、NF-kappaB活性は若年マウスと比較して有意に抑制されること、それに伴い肝再生が有意に抑制されることが示された。われわれは以前より肝におけるNF-kappaB活性亢進にはPin1が必要であることを報告してきており、また、Pin1の作用は加齢に伴い低下することが知られている。よって、高齢肝における肝再生抑制機序にPin1が関与していると考え、様々な実験を施行し、上記の結果を得た。更には、NF-kappaBと並ぶ肝再生を促進する転写因子として知られるSTAT3もPin1の標的蛋白であるため、STAT3活性も評価したところ、高齢肝ではPin1発現低下に伴ってSTAT3活性も抑制されることがわかり、このことも高齢マウスにおける肝再生遅延機序の一因であることが示唆された。本研究の立案時には、① 臨床データの解析による高齢者の肝再生抑制の証明および高齢者に対する拡大肝切除のリスク増大の証明すること、② マウスモデルを用いて高齢マウスと若年マウスそれぞれに拡大肝切除を施行し、高齢マウスで肝再生抑制が生じる機序の詳細を解明すること、③ 細胞実験にて臨床データやマウスモデルで証明した高齢肝の再生遅延機序を確認すること、この3つを研究の柱として考えていた。1年目は①を施行し、2年目は②について確認できたため、現時点では概ね立案時の予想通りに順調に研究が進んでいると評価している。来年度は③について施行し、①や②で示した結果を確認していくことを目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の予定期間はあと一年あるため、今後はマウス正常肝細胞であるAML-12細胞・高齢マウスや若年マウスの肝臓より分離されたprimary hepatocyteを用いて、in vitroにてPin1のNF-kappaB活性やSTAT3活性亢進機序への関与・肝細胞増殖シグナルへの関与を評価するとともに、高齢マウスより採取された肝細胞でのNF-kappaB活性・STAT3活性・肝再生シグナル抑制機所の解明を進めていきたい。具体的にはPin1 siRNA knockdownやPin1 inhibitorであるJuglone投与などによりPin1を制御し、EMSAやwestern blottingによりNF-kappaB活性やSTAT3活性を評価したり、BrdU incorporation assayや肝再生の様々な目ディエーターをwestern blotや蛍光免疫染色で評価することで肝細胞増殖へのPin1の関与を検討する。更には、高齢マウス・若年マウスそれぞれより分離したprimary hepatocyteを肝再生促進サイトカインであるMIP-2で刺激することで肝再生シグナルを誘導し、前述の各種因子を評価することで、肝細胞増殖に加齢が及ぼす影響及び動機所へのPin1シグナルの関与を評価していきたい。更にはPin1をoverexpressionした肝細胞を作成し、同細胞 に酸化ストレス障害を与えた際の肝再生シグナルを評価して、Pin1発現の維持が障害肝の肝再生を改善させるかを検討する。そして、Pin1をoverexpressionした肝細胞を高齢マウスの肝切除時に門脈内注入することで高齢マウスの肝再生を亢進し得るかを評価してPin1をターゲットとした高齢者の術後肝不全への新規治療の道筋を示したい。
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