研究課題
幹細胞移植に必要な肝細胞採取は、準清潔手術であり感染管理が通常の細胞処理よりも厳重に行う必要がある。細胞凍結後の肝細胞移植の生着効率が改善せずに、培養実験を行うと50%のロットでコンタミネーションが確認され、感染管理や細胞採取に関しての問題点が明らかとなった。また、腹腔鏡手術の普及により、採取できる細胞数が激減し、より高い回収率が必要となっている。ICG蛍光による生体細胞染色は、機種によって条件が大きく異なり、可視化の段階で補正する必要性のあることが判明した。また、採取効率の改善するために肝容積評価を改めて検証した。767研究から対象となる25研究であり、標準肝容積の算出法としてBSAを使用しているものが11研究、その他は14研究である。BSAを使用した研究を3次元散布図に投影すると2つのクラスターに分類されることが判明した。これまでに多くの方法が提唱されてきたが、対象年齢によって使い分ける必要のあることが判明した。肝機能と肝容積を相互に評価するためのアルゴリズムと予測式を作成し、手術成績や細胞生存率に関して検証を加えている。これまでに判明したのは、従来のアルブミンやビリルビンではなく、アンチトロンビンIIIとICG15分値による複合式の診断予測能が最も良いことがわかっている。次に細胞採取で使用する素材に関して検討した。1157研究からランダム化比較試験を10研究、観察研究から5研究を採択した。ランダム化比較試験では、抗菌剤被覆縫合吸収糸は、非被覆吸収と比較しリスク比0.67(0.48-0.94)でありP=0.02をもって有意に感染予防効果のあることが判明した。また、観察研究においてもオッズ比0.4 (0.30-0.54)でありP<0.01をもって有意に感染予防効果のあることが判明した。
3: やや遅れている
大学の校舎が新築され、研究室の移動に伴う整備に時間を要したため、一定期間は研究を中断せざるを得なかった。また、北海道胆振東部地震における北海道全域のブラックアウトに伴い、交通機関が麻痺し一部の研究に影響したことも要因と考えられる。
昨年度に明らかになった、細胞採取時のコンタミネーションと細胞機能の異質性に関する課題を解決する。コンタミネーションの根本的解決ために、サーベイランスに加えてPCR-based ORF Typing(POT法)によるマルチプレックスPCRを追加し電気泳動で検出された増幅バンドパターンを解析することで、菌体の相同性をロット間および検出細菌とで比較する。これによって細胞採取時の感染対策を根本から改定する予定で、現在のパスを修正し対象菌体対策を行う。肝機能評価にはGSAフュージョンによる領域別の機能を可視化する。CT吸収補正・散乱補正・検出器間の応答関数補正・位置剛性補正を行った画像再構成によるSPECT画像の定量化情報と細胞機能の関係を明らかにする。細胞凍結保存においては、超過冷却条件と超低温保存のプログラムを修正し最適条件を確定する。保存液の組成にはマトリゲルの成分を中心に物質111および物質511の組成比を検討する。物質の組成によってインテグリンのサブグループ発現が変化し、それによって肝幹細胞の増殖能に影響を与えている。CD44陽性細胞を細胞ソーティングすることで、前区細胞を特異的に抽出する。凍結時・解凍培養時・移植後1か月・移植後3か月における細胞生存率および生着率を検証する。各細胞よりヒートマップを作製し、クラスタリング図によって細胞保存及び自己再生能に影響する物質の同定と特異的分子を同定し、現在の保存液に添加し改善を試みる。同時にICG蛍光条件と細胞採取効率および生着効率に関しての条件を決定する。
大学施設の新築移行に伴い、研究の一時中断期間が生じたため。使用計画としては、実験機器の補充および研究成果の発表と論文公表に関する経費として使用予定である。
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