研究課題/領域番号 |
17K10674
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
久保 正二 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (80221224)
|
研究分担者 |
竹村 茂一 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (00322363)
土原 一哉 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (00415514)
佐藤 保則 金沢大学, 医学系, 准教授 (30324073)
田中 肖吾 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (50382114)
冨樫 庸介 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 研究員 (80758326)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 職業性胆管癌 / DNA傷害 / 多中性発癌 / 化学発癌 |
研究実績の概要 |
新たな職業性胆管癌2例の治療および種々の検討が行われた。それら症例の検討の結果、従来より職業性胆管癌の特徴と報告されてきた、癌による胆管狭窄を伴わない限局性肝内胆管拡張像が、進行癌の状況で診断された1例では不明瞭であったが、他の1例では確認しえた。また、2例において、主腫瘍以外の広範囲の胆管に前癌病変や早期癌病変であるbiliary intraepithelial neoplasia(BilIN)やintraductal neoplasm of the bile duct(IPNB)がみられ、さらに慢性胆管傷害像やγ-H2AX陽性胆管上皮がみられることが明らかとなった。これらから、職業性胆管癌ではDNA傷害を伴う慢性胆管傷害が惹起され、前癌病変や早期癌病変を経て浸潤癌に至ると考えられた。現在、これら2例における癌部、前癌病変部および正常胆管DNAの遺伝子解析を行っている。 一方、これまでの職業性胆管癌症例での多発病変の遺伝子解析結果を比較、検討した結果、同じクローンから進展した結節と、遺伝子変異が全く異なる結節、すなわち多中心性発癌と考えられる結節がみられ、臨床経過や病理学的検討から得られた結果を支持するものであった。 胆管癌組織におけるPD-1抗体やPD-L1抗体の発現をみたところ、通常の胆管癌での発現は低かったが、新たな職業性胆管癌でも発現がみられた。また、胆管癌組織あるいはその周囲組織には多くのリンパ球浸潤がみられ、それらのリンパ球ではPD-1あるいはPD-L1の発現がみられた。 以上より、化学発癌の典型例である職業性胆管癌症例では、化学物質によりDNA傷害を伴う慢性胆管傷害が広範囲の胆管に惹起され、前癌病変や早期癌病変を経て浸潤癌に至る多段階発癌を来すとともに、特異的な免疫反応が惹起されていることが特徴であることが、再度確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は新たに診断された職業性胆管癌2例の臨床像、臨床病理学的および分子生物学的検討を行った結果、従来から報告してきた職業性胆管癌の特徴と一致していたことが判明した。また、これまでの症例において胆管癌組織だけでなく、前癌病変や慢性胆管傷害部においても全エクソン解析を行うことにより、臨床的、病理学的に推定されていた多中心性発癌が分子生物学的にも明らかとなった。 胆管癌組織におけるPD-1抗体やPD-L1抗体の発現をみたところ、通常の胆管癌での発現は低かったが、職業性胆管癌では高率に発現がみられた。また、胆管癌組織あるいはその周囲組織には多くのリンパ球浸潤がみられ、それらのリンパ球ではPD-1あるいはPD-L1の発現がみられた。これらのことから、職業的胆管症例では特異的な免疫反応が惹起されており、免疫チェックポイント阻害剤の有用性が推測される。実際、通常の化学療法が無効となった職業性胆管癌1例で、ニボルマブを投与し、その有効性を確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
新たな職業性胆管癌症例が診断されていることから、今後も引き続き職業性胆管癌症例の臨床像、病理学的所見および全エクソン解析など分子生物学的所見を検討する必要がある。また、検討症例全例の胆管癌組織においてPD-1抗体やPD-L1抗体が発現していることから、免疫チェックポイント阻害剤の有用性が推測される。実際、職業性胆管癌1例で、ニボルマブを投与し、その有効性を確認できたことから、職業性胆管癌症例に対する免疫チェックポイント阻害剤の有用性をより多くの症例で検討する。その際に、免疫担当細胞の機能や変化を検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在、検討できていない職業性胆管癌症例の臨床経過、曝露歴と詳細な免疫組織学的検討および遺伝子解析を行い、これまでの症例と比較検討する。さらに現在、加療されている、特に免疫チェックポイント阻害剤による治療が行われている症例を中心に、免疫担当細胞の機能や変化を検討する予定である。
|