研究課題/領域番号 |
17K10688
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
阪本 良弘 杏林大学, 医学部, 教授 (70343746)
|
研究分担者 |
松浦 勝久 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (70433993)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 膵外分泌細胞 / iPS細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
膵外分泌不全は、膵臓の消化酵素の欠乏に起因する病態である。その臨床徴候には脂肪便や栄養失調が含まれ、栄養失調関連合併症や心血管系疾患の罹患リスク上昇等に関連している。膵外分泌不全の現在の治療法は、食事療法や酵素補充療法であるが、これらの治療法を患者は永続的に続ける必要があり、治療効果も限定的である。別の治療法として細胞補充療法(ES細胞やiPS細胞から誘導した分化細胞の移植)が望まれている。膵臓外分泌細胞の膵外分泌不全患者への移植では、移植細胞から分泌された消化酵素は消化管へ送達されて消化機能を発揮する必要がある。また、分泌物の送達経路の確保は、消化酵素による移植細胞や周辺組織の自己消化を防ぐためにも必要である。本研究では胃に発生する異所性膵からの着想で、胃壁中に膵外分泌細胞の移植を試みた。同種移植モデルとして、ラットの膵臓外分泌細胞を胃の粘膜下層中に移植を行なったが、移植細胞は自己消化されてしまった。粘膜下層直上の粘膜筋板が胃内腔への膵酵素分泌を妨げたと考えられた。消化管から固有粘膜層及び粘膜筋板を除去すると、固有粘膜層のみが再生することが知られている。粘膜筋板を除去するために、ラットの膵臓外分泌細胞を胃の粘膜下層中に移植した後、3日後に移植部位の固有粘膜層および粘膜筋板を電気メス焼灼した。その後、制酸薬投与にて固有粘膜層のみを再 生させると、移植細胞から分泌された消化酵素が胃内腔へ機能的に送達され、移植組織の生着、および胃液中のアミラーゼ上昇を認めた。また、iPS細胞より膵外分泌細胞を誘導し、同様の方法でNude ratの胃粘膜下へ移植をしたところ、4例中3例で移植組織の生着および4例中2例で胃液中のアミラーゼ上昇を認めた。本研究結果をまとめた論文は、Scientific Reports誌にAcceptされ2019年4月に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究結果をまとめた論文はは、Scientific Reports誌にAcceptされ2019年4月に掲載された。今後の課題として以下を考えている。 1: iPS細胞から膵外分泌細胞への誘導 本研究では、iPS細胞より膵外分泌細胞を誘導するプロトコールを確立したが、成人膵臓と比較すると、膵腺房細胞のマーカーであるPTF1A、アミラーゼ、トリプシンの発現が低く、膵酵素の分泌負荷試験においても膵酵素の有意な分泌を認めなかった。作成した外分泌細胞が十分に成熟していない可能性が考えられた。今後、さらなるiPS細胞からの膵外分泌細胞誘導プロトコールの改善が望まれる。 2: 膵外分泌細胞の移植手法 本研究では、ラットの膵外分泌細胞を胃粘膜下層へ同種移植したのちに粘膜面焼灼によって粘膜筋板を除去することで、移植組織の生着および胃液中のアミラー ゼ上昇を認めることを見出し、膵外分泌細胞の機能的に移植する方法を確立した。ヒトへの臨床応用を考慮した場合、胃への移植は①移植やモニタリングのためのアプローチが容易であること、②腫瘍化などの問題が起きた際の切除が容易であること、が挙げられるが、胃酸による胃内の低pH環境が膵外分泌酵素を一部不活化してしまうという問題がある。十二指腸や小腸の消化管壁の構造は胃と同様であり、今後、胃以外の消化管壁への移植も検討する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
1: iPS細胞から膵外分泌細胞への誘導 iPS細胞から膵外分泌細胞誘導については、膵外分泌細胞誘導には細胞外基質およびそれに含まれるFGF7などの小分子が重要であることが報告されている。本研究のプロトコールではMatrigelなどの細胞外基質成分、および関連小分子を使用していないことから、今後はそれらの細胞誘導因子を用いたiPS細胞誘導を試みる。 2: 膵外分泌細胞の移植手法 十二指腸や小腸の消化管壁の構造は胃と同様であり、ラットにおいて十二指腸、小腸への移植を試みる。また、異なるpH環境で分泌された膵外分泌酵素がどの程度不活化されるかをまずin Vitroで検討し、ついで移植後の分泌液で比較を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
成果につき国際学会にて発表を予定していたが、研究計画が応募に間に合わず次年度使用額が生じた。2019年度Asian-Pacific TERMISで発表予定である。今後、より高効率な膵外分泌細胞の移植のため、iPS細胞から膵外分泌細胞を誘導するプロトコールの改善、および移植手法の改良を行う。
|