膵切除後などに発生する膵外分泌機能不全は、膵消化酵素の不足による食物の消化不全と低栄養もたらし、食事療法や経口膵酵素補充療法の効果は限定的であり、細胞補充療法の導入が望ましい。iPS細胞からの膵外分泌細胞の誘導と膵外分泌細胞を機能的に生体に移植する手法を開発することを本研究の目的とした。iPS細胞を接着培養から浮遊撹拌培養に移行後に細胞凝集塊を形成し、多段階誘導法により胚体内胚葉(Day6)、前腸(Day9)、後部前腸(Day11)を経て膵前駆細胞(Day17)を誘導した。更に、低付着性培養皿にて膵腺房細胞・膵管細胞へ誘導を行った(Day31)。ラットの膵細胞を別のラットの胃粘膜下に移植、iPS細胞より誘導された膵外分泌細胞の細胞凝集塊も同様の手法でヌードラットに移植した。結果的に、誘導したiPS細胞全体の40-60%を膵腺房細胞に、20%を膵管細胞に誘導することが可能であった。膵外分泌細胞の移植に際しては、1)ラット膵外分泌細胞を胃粘膜下層へ同種移植、2)移植部位の粘膜筋板を焼灼して胃潰瘍を作成、3)潰瘍の治癒、というプロセスを経ることで、移植組織から胃内腔に膵消化酵素が分泌され、膵外分泌細胞を機能的に同種移植することが可能であった。また、iPS細胞から誘導された膵外分泌細胞を同様の手法でヌードラットの胃粘膜下へ移植し、一部で移植組織の生着および胃内へのアミラーゼ分泌が確認され、iPS細胞由来膵外分泌細胞を移植することによる、膵外分泌酵素補充療法の可能性が示唆された。
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