研究課題/領域番号 |
17K10692
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中島 真人 新潟大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (60588250)
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研究分担者 |
永橋 昌幸 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (30743918)
若井 俊文 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50372470)
坂田 純 新潟大学, 医歯学系, 講師 (70447605)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スフィンゴシン-1-リン酸 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、膵癌細胞由来のスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)とS1P産生酵素(SphK1,SphK2)の腫瘍微小環境形成(TME)における役割を解析するため、PAN02マウス膵癌細胞のSphK1とSphK2遺伝子を,CRISPR/Cas9システムを用いてノックアウト(KO)し、その増殖能や遊走能を野生型(WT)細胞を比較することでSphK1とSphK2の機能を検討した(課題研究A)。さらに、膵癌TME形成における膵癌細胞由来のS1PとS1P産生酵素の役割をin vivoで検索するため、S1P産生酵素KO細胞をC57BL/6マウスに腹注し、腹膜播種モデルを作成し、予後を比較した(課題研究B)。 【課題研究A】増殖能は、WST-8を用いた増殖アッセイを用いて検討した。SphK2 KO細胞の増殖能は,WT細胞より有意に低かったが,反対にSphK1 KO細胞は,WT細胞より増殖能が有意に高いことが示された。遊走能は、スクラッチアッセイを用いて検討を行った。増殖アッセイと同様に、SphK2 KO細胞の遊走能はWT細胞より低かったが,SphK1 KO細胞ではWT細胞よりも遊走能が高いことが示された。さらに膵癌微小環境に近い状況を想定して、酸素濃度1%未満での低酸素培養を行い増殖能と遊走能を評価したが、通常の酸素培養下での実験と同様の結果が得られた。 【課題研究B】マウス腹膜播種モデルの実験においても、課題Aで施行した細胞実験同様に、SphK1 KO細胞移植マウスの予後は、WT細胞移植マウスと比較して有意に短いことが示された。また有意差は認められないもの、SphK2 KO細胞移植マウスの予後は、WT細胞移植マウスと比較して良好である傾向を示した。 以上より、膵癌の発育進展にSphK2が重要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は課題研究AとBについて研究を推進し、計画通りに進行している。以下に進捗状況の詳細を記載する。 【課題研究A】S1P産生酵素KO膵癌細胞を用いて、膵癌細胞の細胞機能(増殖や遊走など)におけるSphK1およびSphK2の働きを検証した。また、膵癌TMEにより近い状況を想定して低酸素培養下で細胞実験を行い、膵癌細胞由来のSphK1およびSphK2の細胞機能に対する働きをより詳細に解析した。 【課題研究B】前述のS1P産生酵素KO細胞を用いて、マウス腹膜播種モデルを確立し、その予後を解析することで、宿主と腫瘍細胞の相互作用によって形成されるTMEにおけるSphK1およびSphK2の機能を検証した。また今後宿主由来のS1PシグナルのTME形成における役割を解析するため、CRISPR/Cas9システムを用いてSphK1およびSphK2のKOマウスを作成した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、課題研究A~Cの以下の点について研究を推進し、その成果を論文化することで総括したい。 【課題研究A】膵癌細胞の S1P産生酵素および産生されるS1PのTME形成シグナルにおける 役割(in vitro):SphK1およびSphK2 KO細胞で観察された増殖能や遊走能の変化を裏付ける分子メカニズムを検討するため、リピドミクス解析やメタボローム解析を行い、膵がん細胞の増殖や遊走におけるS1Pシグナルの分子制御機構を解明する。 【課題研究B】膵癌TME形成における癌細胞と宿主のS1Pシグナルの相互作用(in vivo):課題研究Aで使用した膵癌細胞をマウスの皮下あるいは肝臓に移植し、腫瘍径の推移や予後を解析する。またTME形成における腫瘍細胞と宿主のS1Pシグナルの相互作用をより詳細に観察するため、SphK1およびSphK2をKOした膵癌細胞とマウスを組み合わせた細胞移植実験を行い、腫瘍径の推移や予後を解析する。 【課題研究C】膵癌切除検体におけるリン酸化SphK1とS1Pの臨床的意義( Human sample):膵癌切除検体の腫瘍組織および非癌部の膵組織の新鮮凍結標本に対しリピドミクス解析を行い、S1Pシグナルと臨床病理学的因子との関連を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬などの購入に若干の遅れがみられたため、当該年度から次年度に繰り越しとなった。そのため次年度使用額は、当該年度に購入した試薬などの実験用品の支払に使用する。
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