申請者らは膵癌組織が豊富な線維性間質を有し、血管外血小板と腫瘍関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast: CAF)を中心としたデスモプラジアな間質が上皮間葉転換、免疫寛容、薬剤抵抗性状態を誘導していることを報告してきた。この間質の応答に関して、申請者らは新規血小板活性化受容体であるCLEC2とそのリガンドであるpodoplaninを発現する線維芽細胞との細胞間相互作用において、CLEC-2受容体/podoplaninを介したCAFの活性化に注目している。さらに近年では間質の「細胞老化」が癌の増殖や進展を誘導することが示唆されているが、老化細胞が長期間生存し続けると、IL-6などの炎症性サイトカインや細胞外マトリックス分解酵素(MMP)など、炎症や発癌を促進する因子を分泌するSASP(senescent associated secretory phenotype)とよばれる現象が惹起されることが明らかになっており、CAFの活性化と細胞老化に着目して実験を計画した。 最近では、膵癌治療において術前放射線化学療法を行う症例が増加してきており、最終年度である当該年度には放射線による細胞老化とSASPの検討を行った。ヒト膵線維芽細胞に対して放射線照射(10Gy)を行い、DNAダメージを加えると老化細胞に特異的なp16およびSenescence associated β-galactosidaseが発現し、SASP因子であるIL-8やMMP-1の発現上昇も認められ、SASPが誘導されていることが確認された。さらにSASPを誘導した線維芽細胞の上清を膵癌細胞と共培養すると有意に膵癌細胞の増殖能を亢進させることも確認できた。
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