研究実績の概要 |
Trefoil Factor Family 1 (TFF1)は近年癌抑制遺伝子としての作用が注目されている分泌型タンパクである。本研究の目的はヒト手術標本や遺伝子改変マウスモデルを用いることで膵癌の発癌機構を解明することであり、またTFF1を用いた新たな膵癌治療戦略の開発や、TFF1による膵癌発生予防の可能性を探ることである。 これまでの研究で、膵癌の前癌病変とされるPanIN(pancreatic IntraepithelialNeoplasms)やIPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)においてはTFF1が豊富に発現しており、また浸潤性膵癌においてはTFF1の発現が失われる傾向にあることが判明した。さらに、培養膵癌細胞を用いてTFF1の作用機序を検討したところ、TFF1抑制により癌細胞は上皮様形態から紡錘形に変形し、浸潤能が上昇することが確認された。癌の浸潤には上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition; EMT)が必要とされるが、TFF1抑制群ではsnail, slug, twistなどEMTマーカーが上昇し、E-cadherin, Zo-1, occludinなど上皮マーカーが減弱することが判明した。膵特異的KRAS遺伝子変異を起こすPdx1:KRASG12Dマウス(KCマウス)とTFF1KOマウス(KC/TFF1KO)を交配したところ、マウス膵臓に発生するPanINはより悪性度の高い病変となり、生後12ヶ月のKC/TFF1KOマウスには多発する微小膵癌を認め、またヘテロノックアウトマウスでは肉眼的膵癌と多発肝転移を認めた。これらの結果から、TFF1は膵癌の発生を抑制する癌抑制遺伝子であることが明らかとなった。さらに、TFF1陽性膵癌は化学療法感受性が高いことも判明した。
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