研究課題/領域番号 |
17K10696
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
江口 英利 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (90542118)
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研究分担者 |
和田 浩志 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 消化器外科 副部長 (00572554)
後藤 邦仁 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助手 (10362716)
山田 大作 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (60571396)
岩上 佳史 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (60597441)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗癌剤耐性 / 放射線耐性 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
極めて予後の不良な膵癌や胆道癌は、手術単独では根治が難しく、放射線治療や化学療法等を組み合わせる「集学的治療」が行われているが、治療行為そのものが癌細胞にエピジェネティックな変化を誘導し、むしろ治療耐性を誘発する危険性が報告されはじめている。本研究では、治療行為によるエピジェネティックな変化の誘導機構の解明と、治療耐性克服のための新規治療法の構築を目的とする。当研究室では抗癌治療後に切除した臨床検体や樹立済みの抗癌剤耐性/放射線耐性細胞株が使用可能である強みを活かし、第一ステップとしてまずメカニズムを解明し、第二ステップとして既存のエピゲノム治療薬と化学療法剤による至適な組み合わせを見いだす(ドラッグ・リポジショニング)ことにより、臨床応用の実現性の高い治療法の構築を目指す。 我々は膵癌細胞株にGemcitabineを反復投与することにより、耐性膵癌株(BxPC3、MiaPaCa2、PSN1細胞由来)の樹立に成功しており、これら耐性株と親株を用いてmRNAおよびmicroRNAの発現変化を検討し報告している。また最近新たに放射線治療耐性株も樹立した。そこでまずは、これらの耐性株や感受性株に比較的短期の抗癌治療(抗癌剤、放射線照射)を行った細胞を用いて、エピゲノムの変化を検討した。その結果、癌細胞に放射線照射を行った場合には、膵癌の癌幹細胞マーカーであるc-Metの発現が短時間に上昇することを明らかにできた。c-metの発現はmRNAレベルおよび蛋白レベルでも確認が可能であった。これまでは、癌組織に抗癌治療を行うことにより治療前から抗癌治療耐性を持つ細胞が「残存」することが想定されていたが、本研究で抗癌治療耐性が「誘導」される可能性が示唆されたことは極めて重要な新知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当科にて根治切除術を施行した膵癌症例の切除標本を用いて、c-Metの発現を調べ、予後との関連を検討した。これらの症例は術前化学放射線(CRT)療法を施行した症例も含まれているため、術前治療とc-Met発現との関係性も検討した。 術前CRT施行群に有意にc-Met高発現症例を多く認め、全生存期間の中央値はc-Met高発現群で不良であり、c-Met高発現は有意な予後不良因子であった。多変量解析でもc-Met発現は唯一の独立予後因子であった。放射線を反復照射することによって樹立した放射線耐性株にてc-Metは有意な発現上昇を認め、また放射線単回曝露では6時間後にc-Metの遺伝子発現は有意に増加していた。 2種類の放射線耐性膵癌細胞株を用いてmicroRNAの網羅的解析を行い、エピゲノムの変化を検討したところ、2種類で共通して変化したmiRは40候補であった。そのうちc-Met発現に関与するmiRNAとしてmiR-181b-5pの関与が想定された。miR-181b-5pの下流に存在し発現制御を受けている遺伝子は数百種類あり、今後はそのうちでc-Metに関連性の深いものを検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通りmiR-181b-5pの下流に存在し発現制御を受けている遺伝子は数百種類あり、今後はそのうちでc-Metに関連性の深いものを検討する予定であるが、現時点での最有力候補はc-Metの転写因子であるETS1(v-ets erythroblastosis virus E26 oncogene homolog 1)である。今後はETS1の臨床的意義を探り、術前化学放射線治療によるc-Met上昇という副作用を軽減する方策を構築する予定である。 本研究では、最終ステップとして抗癌剤とエピゲノム治療薬併用の臨床試験を計画している。骨髄異形成症候群に対して近年本邦で保険収載されたアザシチジンや、FDAで既に認可されているデシタビンも併用薬の候補として有力である。またヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のボリノスタットは皮膚T細胞性リンパ腫の治療に既に用いられており、ロミデプシンも他臓器癌に対してFDAにて既に承認されており、併用薬の候補として有力である。今後当科において第Ⅰ相(安全性)試験として開始できるよう、倫理審査に向けた書類の準備などを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、最終ステップとして抗癌剤とエピゲノム治療薬併用の臨床試験を計画している。前述の通り、アザシチジンやデシタビン、ボリノスタット、ロミデプシンが併用薬の候補として有力である。これらの薬剤は既に他疾患で臨床応用されていたり、臨床試験が進行していたりと、first-in-humanのステップは終了しているが、やはり抗癌剤との併用に進める場合には動物実験での安全性試験が重要となる。本研究では、次年度にマウスや、可能であれば中型動物を用いた併用投与試験を行い、その血中濃度の測定などを行う予定である。このためには動物の購入や血中濃度の測定日などが必要である。このように本年度は動物実験には到らなかったことから、次年度に経費を使用することとなったものである。
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