研究実績の概要 |
研究の全体構想は抗がん剤耐性膵癌幹細胞(PCSC)の新規治療薬とバイオマーカーの開発である。我々はこれまでに正常膵幹細胞と高悪性度のヒト膵癌細胞が幹細胞マー カー(CD133)を発現することを明らかにした(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。また、既存の抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者 から10種類のCD133陽性PCSCを樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを明らかにした(PLoS One, 2013)。さらに、ヒトPCSCがGEMによるヒストンアセチル化を介してK-RasVal/MEKシグナルの下流であるMMP-10の発現を促進することも明らかにした(Pancreas, 2017)。本研究ではGEM耐性により活性化したK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達を標的とした新規治療薬とバイオマーカーの開発を目指す。初年度はモデル系の確立を目的に、マウス組織幹細胞に遺伝子導入して作成したマウス人工PCSCをマウスに移植し、GEMの長期投与によりGEM耐性マウス人工膵癌細胞を作成することに成功したが、耐性株におけるMMP-10の発現増強を認めなかった。次年度、ヒトPCSCに立ち戻り、K-Ras/MEKシグナルの上流の因 子であるIntegrin-β3とFGF-2、FGFR1の発現がGEMにより促進され、さらにMMP-10に活性制御を受けるMMP-1の発現も促進されることを明らかにした。最終年度、マウスに移植したヒトPCSCが、PCSCを単離した患者と同じGEM耐性機能を示すことを明らかにした(Pancreas 2019)。さらに遠隔転移を伴った進行膵癌5症例を3年間追跡し、MMP-10の血中濃度が正常範囲内であれば化学療法を行うことで予後が46.8ヶ月、MMP-10が高値なら2ヶ月であり、血清MMP-10値がバイオマーカーになる可能性を明らかにした。
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