研究課題
膵癌はdesmoplasiaと呼ばれる細胞外マトリックスに富んだ組織を有しており、癌の浸潤等への関与が指摘されている。そのような細胞外マトリックスのリモデリングにおける代謝物の変化を分析することが本研究の目的である。当研究室では、三次元共培養よりも実際の組織を模倣しているとされるオルガノイドを用いて、細胞外マトリックス環境の再現を行っており、ヒト膵癌切除標本から樹立したヒト膵癌オルガノイドを膵星細胞と共培養することによって、オルガノイド単培養と比較して基底膜・腺管構造を失いコラーゲンマトリックスに浸潤することを明らかにした。また、それら膵星細胞は、Endo180を強発現しており、マトリックスに含まれるコラーゲンを細胞内に取り込み、新たにコラーゲンを産生することによって、細胞外マトリックスをリモデリングするだけでなく、腫瘍細胞に先導して癌細胞の浸潤を誘導することを明らかにした。その膵星細胞が活性化される要因について、オートファジーが関連することを明らかにし、阻害剤の添加によって、膵星細胞内の脂肪滴が増加し、細胞静止化を誘導することを確認した。一方、ヒト由来膵組織(膵癌、膵炎、正常膵)を用いて、低分子代謝産物を対象としたメタボロームマッピングでの検討において、膵癌組織において、Energy charge((ATP + 1/2 ADP) / (ATP + ADP + AMP))が高い傾向がみられている。一方で、MALDI-IMSによるメタボロームマッピングで同定できる物質は限られおり液体クロマトグラフ法をもちいた詳細な分析についても検討する。
3: やや遅れている
膵癌自然発生マウスについては、ルシフェリン投与によって膵十二指腸由来の細胞が発光するKPCLマウスを樹立し、微小肝転移を検出するなど、膵癌微小環境再現のための三次元共培養やオルガノイド樹立と合わせて順調にすすんでいるが、MALDI-IMSで同定できる物質は限られていることおよび、オルガノイド含んだ凍結切片を得ることが難しいという課題が見出され、研究は当初の計画よりもやや遅れていると評価した。
MALDI-IMSで同定できる物質は限られている短所を補うため、マイクロダイセクションにより組織を採取して、代謝物を抽出し液体クロマトグラフ法による分析を行い多くの代謝物を同定することを試みる。標本作製技術の確立については、固定など前処置の見直し等の検討を行う。
オルガノイド含んだ凍結切片を得ることが難しいという課題が見つかり、研究計画に遅れが生じているため。次年度は研究用試薬、器材、抗体などの消耗品に使用する予定である。
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Surgery
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10.1016/j.surg.2017.09.040
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