研究実績の概要 |
平成29年度は、まずヒト膵癌細胞株からの癌幹細胞の抽出・培養を試みた。7種のヒト膵癌細胞株(KP4-1,SUIT-2,PK59,PANC-1,PK-1,PK45H,AsPC)をALDEFLUOR kitで処理したところ、KP4-1,SUIT-2,PK59,PANC-1において、ALDH高発現細胞群が確認できた。その中から、PK59,SUIT-2を用い、ALDH高発現細胞をsorting後、sphere形成能を有する細胞のみを分離し、癌幹細胞を培養することに成功した。PK59由来癌幹細胞株と親株の遺伝子発現をmicroarrayを用いた網羅的解析により比較検討したところ、Ca2+, K+, Cl- channelなどの種々のイオン輸送体が癌幹細胞において高発現していることを確認した。現在、これらターゲットに対する阻害薬を選択し、癌幹細胞特異的に増殖抑制効果を示すか否かを検証している。 一方で、食道癌細胞株TE8から癌幹細胞を抽出培養し、網羅的遺伝子発現解析からTRPV2が癌幹細胞において高発現していることを見出し、その阻害剤トラニラストの癌幹細胞増殖抑制効果を解明した(J Gastroenterol.2018)。また、消化器癌におけるAE1(Oncotarget.2017)、NHE1(Oncotarget.2017)、TRPM7(Anticancer Res.2017)などのイオン輸送体の機能・臨床病理学的意義を解明した。同時に、ヒト胃癌細胞株における低浸透圧殺細胞効果が、カリウムチャネル阻害剤により調節性容積減少(RVD)の抑制を介して増強されることをin vitro、in vivo両実験系で明らかにした(Oncotarget.2017)。また、肝細胞癌において、温度刺激が水チャネルAQP5の発現・局在・細胞内代謝に与える影響を解明した(Int J Oncol.2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち、ヒト膵癌細胞株を用いた癌幹細胞の作製と、癌幹細胞特異的に発現するイオン輸送体の同定の基礎実験は、ほぼ終了している。また、消化器癌における種々のイオン輸送体・pH制御因子の機能解析も進展しており、研究成果は既に国内外の学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、膵癌幹細胞株において高発現するCa2+, K+, Cl- channelなどの種々のイオン輸送体に対する阻害薬を選択し、癌幹細胞特異的な増殖抑制効果の解析も進行しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、ターゲットとして選択したCa2+, K+, Cl- channelなどの種々のイオン輸送体阻害剤の、癌幹細胞特異的な増殖抑制効果をさらに検証するとともに、癌幹細胞内イオン濃度変化を介する細胞周期・アポトーシス制御機構の解明を試みる。また、ヒト膵癌組織における癌幹細胞マーカーの発現解析と、イオン輸送体発現との相関性を解析する。更に、in vivoにおける、阻害剤・RNA干渉を用いたイオン輸送体制御による皮下腫瘍成長抑制効果について検証するとともに、各条件の皮下腫瘍から癌幹細胞を抽出し、self-renewal capacityを解析する予定である。
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