研究課題
骨切開を伴う手術では骨切断面から多くの出血を伴うため、ボーンワックスで骨切断面にパッキングすることによる物理的な止血法が用いられている。心臓手術の胸骨正中切開においてもボーンワックスが用いられるが、ボーンワックスは非分解・吸収性であるため、残存による骨癒合阻害や術後感染等の合併症を助長する可能性がある。さらに骨癒合・再生の遅延は術後の社会復帰を妨げ、患者のQOLに著しく影響を及ぼす。従って、新たな骨切断面に用いる止血材料の開発は多くの患者に有益である。本研究では、生体温度領域柔軟性を持つ生体吸収性材料を用い、早期骨再生を誘導する新たな止血材料の創出を目指した基礎的さらには前臨床的研究を行うことを目的とする。本年度では、ウサギ胸骨正中切開モデルを用いた検討を行った。胸骨を丸ノコギリで正中切開し、骨断面を市販ボーンワックス、ペプチド不含P-(CL-DLLA)またはペプチド含有P-(CL-DLLA)で塗布して骨髄出血を止血したのち、胸骨を閉胸した。2週間後に屠殺して胸骨組織を採取し、組織学的評価を行った。全ての群で切開箇所の骨膜に近いところでの内軟骨様骨化や繊維化、炎症性細胞の浸潤が観察された。一方、ボーンワックス群では、緻密骨形成はなく、胸骨辺縁は形態が大きく崩れていた。ペプチド不含P-(CL-DLLA)群では、P-(CL-DLLA)が細かく断片化されて残存していた。ペプチド含有P-(CL-DLLA)群では、切開部分にCollagen I産生骨芽細胞が見られ、ペプチド不含P-(CL-DLLA)群に比べてcollagen I 陽性エリアが多く、緻密骨形成が観察された。また、断片化したP-(CL-DLLA)も残存していた。