研究課題/領域番号 |
17K10739
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
松村 剛毅 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (20297469)
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研究分担者 |
諌山 紀子 東京女子医科大学, 医学部, 研究生 (50747706)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再生血管 / 生体吸収性素材 / 肺静脈 / 先天性心疾患 / 外科治療 |
研究実績の概要 |
肺静脈狭窄症という極めて難治性の疾患の外科治療に新たな選択肢を提示し得る素材の開発研究を行っている。具体的には、血管型の生体吸収性素材を用いて、導管またはパッチ状に実験動物の肺静脈を再生し、遠隔期の組織形成を評価する。将来、臨床応用ができるよう研究開発を継続する。 血管再生のメカニズムは、生体吸収性素材が埋植された部位に自己細胞が迷入し新生組織が形成される。組織が分化し血管組織としての機能を獲得する間、この生体吸収性素材は静力学的に未成熟の血管組織を補助しつつ、自らは徐々に非酵素的に分解し吸収されていく。このように生体の自己修復能を促し、かつ血管の生力学的な不足分を組織が成熟するまでのある期間代替するのが、再生血管用の生体吸収性素材である。 日常臨床において使用されている人工血管のごとく素材を生体内に埋植するのみではあるものの、自己の組織が正しく形成され、組織が生着・成熟するための” 足場” を提供するためには埋植部位での組織反応を熟知しそれに見合う素材の条件を模索しなくてはならない。肺静脈は、極めて流速が遅く、血管の壁厚も薄く、また血管径も細いために、素材としての条件は極めて難しくなる。よって、これまで以上に素材の規格の最適化と厳格化が求められ、素材の改良が求められる。 現時点では、導管状の肺静脈の成功は1頭に留まっている。よって当初の計画通りにまずはパッチ形成での肺静脈再生に挑戦し現在、2頭が約1年の経過観察を終える段階である。また、昨年度には新設計の素材が完成したために今年度はさらに6ヶ月の経過観察を目標として埋稙実験とカテーテル検査、組織学的検証により評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
再生肺静脈のパッチ形成は現時点のカテーテル検査に於いて順調である。成功率も上がっており、その点では、研究は順調である。しかし、最終的には導管状の再生肺静脈の再建である故、その点に於いては生体吸収性素材の改良の余地が依然あった。昨年度中盤に、改良新素材の開発に目処が立ち、製造工程に入り、試作品が完成した。漸く他の実験にて埋稙できる段階となった。これをもって、次の段階として肺静脈用に血管径の細いものを作成する準備に入る見通しがたった。よって、素材の開発の遅れが実験に影響を与えた点で、遅れていると判断する。また、研究期間を延長したとしても本研究に於いて経過観察が必要とされる期間は組織の再生・成熟に要する1~2年であるために本研究期間での導管での肺静脈の再生埋稙実験は難しく、今後の課題での挑戦となる。一方、パッチ状の再生血管は2頭の実験動物にて1年の経過観察を終える段階になった。これらの状況・結果を考察した上で本年度に於いて追試・実証を行っていく。そのためにも研究期間を延長した。この点に於いては、研究は前進している。 実験施設の移設の可能性・運用方針の変更の可能性・大学の現状の問題等、研究が遅れてしまっていることも鑑み、研究区分としてはやや遅れている、と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
生体吸収性素材の作製: 再生血管用生体吸収性素材は、これまでの研究結果を踏襲して開発・改良を行ってきた。それを踏まえ、最新型が昨年度中盤に完成し、今年度には肺静脈径に準じて径5~6mmのものを作成する。製造に関しては、完全機械化・自動化は現時点では不可能な故、引き続き多くの工程を手作業にて行う。規格化は進んでいるために将来は可能な限り工程を機械化していく予定である。 素材の規格化:素材の作成方法の条件設定や生力学的試験は重要であるためにメカニカルテスターにて圧縮試験、弾性試験などを行う(継続)。 実験動物への埋植実験: 肺静脈へのポリマーの埋植実験を引き続き行って行く。適正と思しき生体吸収性素材を用いて、埋植実験を行う。動物愛護の点より、1ヵ月での評価を行った上で良好な結果であれば、経過観察としていく。不良と判断した場合は、素材づくりに戻り、再検証を行う。本研究の一つの目標である再生肺静脈パッチを成功させるために12ヶ月評価用のモデル6頭を目標として埋稙実験を継続する。(現時点に於いて最低あと1頭、合計3頭を目標とする) 術後の評価方法は、開存性を確認する手段としてカテーテル検査を1ヶ月に必ず行う。吻合部近傍につけたマーカーを目印に造影検査を行う。電子媒体に透視画像を記録・保存する。その後は、3,6,12ヶ月と検査を行う。同時に、可能な限り導管状ポリマーの開発と埋植実験を行い、同様の評価を行っていく。本年度の最後には、頭数が少ないものの組織学的評価もできる予定である。 臨床的にはパッチ状の素材での形成術でも十二分に価値があるためにその評価を一つの目標とする。本年度は最終年度のために前半に埋稙実験を進行させ、残る課題すなわち導管での成功に繋げるために研究結果をまとめると同時につぎの課題、則ち導管での肺静脈の再生に向けた準備を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 主研究者の院内での配転(兼務)による業務負担の増加およびセットアップに時間を要し、研究時間を削減せざるを得なかったこと。 2.さらなる改良型の医材が完成し、それを他の実験系で検証しているが故(結果は以前よりもさらに良好)、Reductionの観点および実験動物の犠牲を減らす意味でも、その結果を待ってから研究を継続したく、さらに経過観察期間をとるためにも期間を延長せざるを得ないこと。 3.実験施設の移設の可能性もあり、その方針決定がなされず研究が遂行できなかったこと、などがあげられます。
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