生体吸収性ポリマーを血管の再生のための基材として使用し、特に基材の汎用性を考慮し細胞や薬剤は一切使用せず基材そのものを直接埋稙し再生血管を作成してきた。本研究では、肺静脈の再生に最適な素材を模索しつつ、生体吸収性ポリマーのみによる肺静脈の再生が可能かを検証した。 初めは動物実験(犬)の左下葉枝に径約5mmのポリマーを作成し埋稙した。しかし、血流が約1/6で小口径の低圧系での再生は難解であるため当初の予定通りパッチ形成に切り替えた。単純遮断下に約9×6mmの楕円形のポリマーを逢着し、経時的な評価を造影検査にて行った。経時的に撮像した動画により、再生肺静脈の開存性・形態を確認した。さらに埋稙後、1年の時点で実験動物を犠牲死せしめた後に再生肺静脈の組織学的検証を行った。 結果、パッチ状ではあるものの生体吸収性ポリマーによる肺静脈の再生が可能であることは証明された。僅かな狭小化を認めるが、血行動態には大きな変化はなく、また瘤化などのネガティブな変化は認められなかった。組織学的には、1年での評価であるために血管平滑筋細胞の十二分な増生は認められなかったが、正常血管への再生過程であると考えると妥当であると判断できた。しかし、成功例がまだ少ないこと、経過観察期間が以前の研究と違い短い1年であることを鑑みると、少なくとも2年の経過観察期間での研究が望ましいとも思われる。いずれにせよ、パッチ状の再生肺静脈の可否が世界で初めて証明された。 血流が少なく、低圧系であり、径が4~5mmの肺静脈を導管として再生させるためにはさらなる素材の研究が必要と考えられた。
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