研究課題/領域番号 |
17K10742
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
宮城 泰雄 日本医科大学, 医学部, 講師 (00350116)
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研究分担者 |
丸山 光紀 日本医科大学, 医学部, 講師 (30333123)
藤井 正大 日本医科大学, 医学部, 准教授 (60297926)
時田 祐吉 日本医科大学, 医学部, 助教 (20386189)
太良 修平 日本医科大学, 医学部, 助教 (80465319)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 心筋再生医療 / 心不全 / 医工学 / バイオマテリアル / 細胞治療 |
研究実績の概要 |
これまでの再生医療の臨床応用もしくは、基礎分野の前臨床研究の中心は、細胞移植にあった。細胞のみを標的組織に注入するという方法論であった。しかし、移植された細胞のほとんどは、細胞死などにより、移植部位には生存できない。そもそも、生体組織とは、細胞とその周囲環境からなる複合体である。細胞だけでは、組織は成り立たず、その細胞周囲環境が必要となる。この周囲環境を細胞外マトリックス(extracellular matrix: ECM)という。ECMには、様々な役割がある事が解っており、細胞生存においても重要である。 近年、このECMの役割を代用できる人工生体素材(バイオマテリアル)の研究が盛んで、多くの分野で既に臨床応用されている。心筋再生医療に最適なバイオマテリアルによるECMが確立されれば、移植された心筋細胞の生着率、生存率が向上し、臨床応用への可能性も高まると確信する。我が国では、細胞シートやジェルタイプのバイオマテリアルは、研究が盛んである。しかし、細胞シートは、極めて菲薄なため、操作が難しい。実際に心臓に移植する場合、菲薄な細胞シートやジェルは、強度が無く、常時、収縮拡張運動を繰り返している心臓を物理的にサポートする事は不可能である。それに対して、人工ECMは、心臓の作り出す動的環境に耐え得る十分な耐久性と心臓内圧に対抗する強度を有する素材が多い。 移植心筋細胞は、ホストの心臓の心筋の興奮に一部が同期していることが解ってきた。本実験では、心筋細胞ECMグラフトであるため、グラフト全体もしくは、一部が同期した興奮伝播をしている可能性がある。、移植された心筋細胞は、傷害心筋で損なわれた心筋興奮伝播を再構築し得る。心筋細胞ECMグラフト移植は、心筋再生医療領域でも細胞移植の有用な基材の応用が考えられ、細胞移植方法の改良に寄与すると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の目標は、ECMグラフト作成に適したバイオマテリアルの選定とグラフト作成である。 本研究で使用するバイオマテリアルは、コラーゲンベースもしくは小腸粘膜下組織(SIS)ベースを予定していたが、細胞培養に適したスキャフォールドとしては、コラーゲンベースのバイオマテリアルを選択することにした。 培養細胞は、ヒト多能性幹細胞(hiPS cells)より分化誘導した心筋細胞を使用する事とした。 コラーゲンは、細胞培養に適したポーラスサイズを有することを研究者らは、発表してきた。しかし、多くの心筋細胞をコラーゲン骨格に生着させることが困難であることも判明している。多くの細胞が培養液中を浮遊することが原因で、コラーゲン骨格に生着せず、そのまま、細胞死を起こす。この問題を解決するために細胞接着因子を細胞培養に応用出来ないか検討した。細胞接着因子は、ファイブロネクチンを使用した。ファブロネクチンは、デッシュ上の細胞培養でも使用される接着分子である。デッシュ上に細胞を生着させ、培養中の細胞死を予防できる。この原理をコラーゲンスキャフォールド上の培養に応用した。 コラーゲンスキャフォールドにファブロネクチンを散布し、一定時間整置し、コラーゲン-ファイブロネクテインスキャフォールドを作成。その合成スキャフォールド上で心筋細胞培養を施行した。心筋細胞培養日数が進むにつれて、心筋細胞がクラスターを形成し自己拍動を開始した。コラーゲン-ファイブロネクテインスキャフォールドでは、クラスター周囲の広範囲コラーゲンを巻き込んでクラスターが拍動しているのが観察された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、確立された心筋細胞ECMパッチ動物移植モデルを用いて、①移植されたECMパッチの病理学的検討を行い、より詳細な心筋細胞ECMパッチの評価をする予定である。 平成29年度の結果を踏まえて、移植バイオマテリアルは、引き続きコラーゲンベース・スキャフォールドを使用する予定である。しかし、研究者のこれまでの研究からコラーゲン・スキャフォールドだけでは、心臓の繰り返す収縮拡張運動に耐えうる剛性が無いことが判明している。細胞培養では、コラーゲン・スキャフォールドが適していることがこれまでの研究から判明しているが、実験動物を用いた移植実験では、また、新たな形でのバイオマテリアルの使用が不可欠の可能性がある。現在、候補に挙がっているのは、コラーゲン・スキャフォールドと小腸粘膜下組織(SIS)ベースのスキャフォールドを組み合わせる移植方法である。今年度の研究目標は、まず、バイオマテリアル移植実験モデルの確立とした方が、今後の研究推進には、有用と考えらえる。 動物実験で使用する動物種はラット(Sprague Dawley)を予定している。日本医科大学倫理委員会の承認は既に受けている(承認番号:27‐150、タイトル:細胞外マトリックスと細胞治療を応用した新たな心不全治療の開発)。実験プロトコールを以下に示す。ラットの心臓冠動脈を結紮して、左室自由壁に心筋梗塞を作成する。心筋梗塞作成4週間後に心筋障害部位を覆うように心外膜側にECMパッチを移植する。ECMパッチ移植後、4週間後(心筋梗塞作成8週後)、動物を安楽死せしめ、移植された心臓を摘出し、病理学的検討をする。心臓超音波検査は、心筋梗塞作成前および作成後とECMパッチ移植後にそれぞれ施行し、心臓の経時的変化を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在の研究進捗状況は、概ね計画通りであるが、研究所段階であり、in vitroの実験とその解析に係る物品費が主であった。しかし、次年度は、さらに実験段階を進め、動物実験を主とするため、その実験器具、実験動物購入費および管理費、さらに動物実験の結果の解析に係る物品費等の出費が予想される。また、当該研究分野の発展は著しく、国内のみならず海外学会等の情報収集も必須と思われ、それに係る出張費についても考慮した。
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