研究課題/領域番号 |
17K10745
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
水野 敏秀 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40426515)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 補助人工心臓 / 後天性フォンビルブランド病 / ADAMTS13 |
研究実績の概要 |
体内植え込み型補助人工心臓を装着した患者においては,術直後や術後遠隔期の出血合併症の発生が問題となっている.かかる合併症には,近年高分子量von Willebrand factor multimer の減少による後天性von Willerand 病の関連が報告され,これら病態のくわしい解析が望まれている.そこで我々は,補助人工心臓が血液中のvon Willebrand factorに与える影響およびその病態機序について検討を実施した.本研究では,動圧浮上軸流型ポンプおよび軸シール型遠心ポンプの2種類の植え込み型補助人工心臓を対象とし,新鮮ウシ血液を用いたin vitro 試験により,血液還流後のvon Willebrand factor multimerの変化について検討を実施した.SDS-Agaroseゲル電気泳動による解析では,軸流ポンプでは血液還流開始(2 L/min, 100mmHg)直後より経時的な高分子量multimerの減少が認められ,一時間後にプラトーとなっていた.この結果は,後天性von Willebrand 病が術後遠隔期の合併症であるという従来の見解と異なり,術直後の出血合併症にも関与している可能性を示唆いていた.一方で,遠心ポンプを使用した検討では,血液還流後(5 L/min, 100 mmHg)の高分子量multimerの減少は,軸流ポンプに比較し非常に軽度であり,ポンプ形式により血液中von Willebrand factorへの影響が異なることも示された.また,von Willebrand factorの特異的切断酵素であるADAMTS13の働きを阻害した同様の実験では,軸流ポンプにおいても高分子量multimerの減少は認められず,本病態にはADAMTS13の働きが強く関与している可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血液ポンプによるVWF 高分子量マルチマーの切断現象を解析するために,現在,国内で市販されている植込み型VAD4 機種(HeartMate2,DuraHeart(販売中止),EvaHeart,Jarvik2000)を用いて,還流試験を実施した.Duraheartはメーカーが販売供給の中止を決定したため,今後,本機の入手は困難となる可能性があるが,本試験では中止前に試験を実施していたため,本研究は可能であった.また,Jarvik2000については,契約手続きの遅延などから入手が遅れたが,年度末より実験を実施することが可能となり,平成30年度にかけて本計画を遂行している.このことによる研究計画への影響は小さいと考えられる.本試験により,連続流血液ポンプ内で発生するShear stress によるVWF 高分子量マルチマーの切断について,血液ポンプ毎の固有値および血小板活性による再供給量の特性が解析可能であった.当該試験で行われるウシ血を用いたVWF 高分子量マルチマー解析については,実験条件がヒトとは異なり,国内では,ほぼ当センター研究所の分子病態部でしか実施できないものであった
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,ウシを用いた種々の血液ポンプに対する性能評価試験を年間約10頭実施している.その試験を利用し,VAD 装着後の慢性期における後天性VW 病の病態について検討を実施する予定である.測定する項目は,VWF 抗原量,およびVWF 活性(検査会社に外注),VWF 高分子量マルチマー解析,ADAMTS-13 活性量(国立循環器病研究センター研究所分子病態部で実施),血小板数を含む血球数(国立循環器病研究センター研究所人工臓器部で実施)を計測する.更にはトロンボエラストメトリー法を用いた血液凝固能(ROTEM)および電気的インピーダンス法を用いた血小板凝集能(Multiplate)を測定し(国立循環器病研究センター研究所人工臓器部で実施),VAD 装着後の後天性VW 病が血液凝固・血小板凝集状態へ与える影響について検討を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は,ほぼ予定通りに遂行されている,平成29年度の余剰金も29,675円であり,平成30年度研究計画を変更する必要は無いと考える.
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