重症心不全患者に対する補助人工心臓療法は、近年の機器の改良や臨床技術の進展により有効な治療法としての認識が高まっている。しかし、補助循環療法では治療期間が長く、後天性フォンビルブランド病や消化管出血など遠隔期での合併症が増加していることが報告されている。かかる問題に対し、我々は、このような補助人工心臓に関連する出血性合併症を防止するためには、補助人工心臓駆動時の剪断応力によるvon Willebrand factor(VWF)の切断と、活性化血小板からのVWFの再供給の関係を解明することが非常に重要であると予想した。本研究では、補助人工心臓の使用時における循環血液中のVWFマルチマーの動態を解析することを目的とし、植込み型補助人工心臓2種類(軸流型、遠心型)と体外設置型ディスポーザブルタイプの補助人工心臓(遠心型)を用いて検証を実施した。 試験には、新鮮なウシ血液を用い模擬循環回路にて灌流試験を実施し(5L/min、100mmHg)、検体は全血および乏血小板血漿(PPP)の2群とした。SDS-アガロースゲル電気泳動解析では、軸流型補助人工心臓による血液循環開始直後にVWF中の高分子量マルチマー(HMWM)が減少し、60分後にはプラトーとなっていた。一方、遠心型補助人工心臓では、軸流型補助人工心臓を用いた場合と比較して、HMWMの切断はごくわずかであった。さらに血小板を含む全血検体では、HMWMsが一旦減少し、60分後には回復することが観察されたが、しかし、PPPサンプルでは、循環試験中に連続的にHMWMsが減少することが観察された。 本結果より、人工心臓内でのVWFの動態は人工心臓の種類に依存することが示され、人工心臓内を循環することで、血小板活性化によるVWFの再供給とポンプ内のせん断応力によるVWFの切断が同時に起こっていることが示された。
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