研究課題
腹部大動脈瘤(AAA)は進行性の大動脈疾患であり、最終的に破裂すると高い死亡率に至る。大動脈をはじめとする血管には血管周囲脂肪組織が存在し、そこには多数の脂肪細胞(血管周囲脂肪細胞:perivascular adipocyte: PAC)が含まれる。前年度までの我々の研究では、このAAA病変のPACは過剰に脂質を取り込んで悪玉化しており、炎症性のサイトカインを高発現していることを見出した。さらにこれらのPACが存在するAAAの外膜領域いおいて、様々な炎症細胞の高度な浸潤が認められた。一方、大動脈をはじめとする血管には血管内血管や血管内リンパ管が存在し、その血管壁における様々な分子や細胞(炎症細胞など)を運搬を担っていると考えられている。さらに、動脈硬化症のような血管の疾患では、その外膜領域の血管内血管に変化が見られることが報告されているが、AAAによく分かっていない。よって本年度の研究では、AAA病変における血管内血管の変化について検討した。その結果、AAA病変においては外膜境界域での血管内血管の数には有意な変化は認められなかったが、血管の周長は増大が認められた。このため、AAAにおける血管内血管は肥大化(巨大化)していることが推測された。また、AAAでは中膜において血管内血管が観察されたものもあったため、AAAの進行に伴いVVが中膜域にまで達していると考えられた。さらに、AAA病変の外膜部では、出血様の像が認められ、血管内血管の脆弱化が予想された。一方、正常大動脈やAAAの外膜領域において、血管内皮前駆細胞のマーカーであるCD34抗体に対する陽性細胞が観察され、このCD34陽性細胞はAAAにおいて著しく減少し、CD34陽性細胞や血管内皮細胞ではアポトーシスも観察された。以上の結果から、AAAの進展と血管内血管との間には何らかの関連性があることが示唆された。
3: やや遅れている
本研究課題において、AAAの進行に伴う血管周囲脂肪細胞の変化(悪玉化)に関する一定の成果が得られたが、これについてはまだ論文化には至っていない。この研究成果を論文にまとめるという点で、進捗状況は「やや遅れている」という評価に至った。また、本研究課題を遂行する中で、AAAの進行に伴なう血管内血管の変化(脆弱化)という新展開も生まれ、これについても2020年度において検討を進めたいと考えている。
本年度の結果から、AAA病変部では血管壁内の出血や、血管内血管の肥大化、血管内皮前駆細胞や内皮細胞のアポトーシスが認められた。このようなことがAAAの形成や進行に与える影響は不明であり、今後の課題でもある。一方、動脈硬化病変では、血管内血管は周皮細胞を欠いた脆弱な血管となることが知られており、、その血管の透過性亢進も報告されている。本研究で検討したAAAにおける血管内血管でも同様の可能性が考えられるため、今後は血管内血管の周皮細胞の有無、血管内皮細胞間の接着、その透過性について検討を加え、AAAの進行に対する役割を調べるべきであると思われる。さらに、これらの変化と血管周囲脂肪細胞の悪玉化やアディポサイトカインとの関係や、炎症との関係についても調べるべきである。
本研究課題において、AAAの進行に伴う血管周囲脂肪細胞の変化(悪玉化)に関する一定の成果は現在までに得られており、学会等でもすでに発表を行っている。しかしながら、これらの成果をまとめた論文は作成には至っていない。今後はこの研究成果を論文にまとめる作業が残されている。さらに、本研究課題を遂行する中で、AAAの進行に伴なう血管内血管の変化(脆弱化)という新たな展開が開けてきたため、この内容についても継続して研究を進める予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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