研究課題/領域番号 |
17K10763
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
川人 宏次 自治医科大学, 医学部, 教授 (90281740)
|
研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 大動脈二尖弁 / 数値流体力学計算 / 壁せん断応力 / MMP |
研究実績の概要 |
これまで当研究グループは、数値流体力学計算(CFD)による流体力学研究で、大動脈二尖弁症例では、生理的な2Pa程度の壁せん断応力を超える10Pa以上の壁せん断応力が大動脈壁に作用する可能性を示した(J Thorac Cardiovasc Surg, 2017;153:S52)。しかしながら,10Paを超える非常に高い壁せん断応力環境に対する内皮細胞の応答の詳細は明らかになっていない。 2018年度は、首都大学東京坂元尚哉准教授研究室と共同で、大動脈二尖弁の異常血流が大動脈壁に及ぼす生体変化の分子機構を解明するため、ウシ血管内皮細胞を使用したin vitro実験を実施した。本モデルでは、ウシ大動脈由来内皮細胞を使用し、動脈の生理的平均値2Paまたは10-40Paの定常壁せん断応力を内皮細胞に24時間負荷し、MMP/eNOS産生を測定した。ゼラチンザイモグラフィーによる内皮細胞のMMP産生測定実験では、壁せん断応力の増加に従ってMMP-2産生量の減少傾向が確認された。MMP-9においても2Paに比べ10Paの壁せん断応力により減少傾向が見られた。20Paおよび40Pa環境下ではMMP-9は検出できなかった。ウェスタンブロッティングの結果においては、eNOS発現量は2Paの壁せん断応力負荷により静置培養に比べ増加し、20Pa以上では減少傾向が見られた(第41回 日本バイオレオロジー学会 [2018.6.16-17] 名古屋)。また、ウシ大動脈由来血管内皮細胞を使用した大動脈内壁への衝突流を再現する流れ負荷回路を作成し、細胞剥離および剥離部再生能に対する衝突流の影響を調べた。結果は、衝突流負荷により内皮細胞の創傷閉鎖は抑制され,壁せん断応力の空間的な変化が細胞の剥離に影響を与えることを示された(日本機械学会 第31回バイオエンジニアリング講演会 [2018.12.14-15] 郡山)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記in vitro研究結果に加えて、自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、名古屋工業大学中村匡徳教授の研究室と共同で、大動脈二尖弁症例を中心としたCFD解析研究を現在実施している。患者個体別で3次元造影CT検査やphase-contrast MRI検査データを使用したCFD解析を行い、壁せん断応力を中心とする血行力学因子の分布をそれぞれの症例で計測している。 具体的には、大動脈二尖弁症例で、大動脈壁せん断応力を中心とする血行力学パラメーターの分布マップを作成し、大動脈壁の組織学的変化との関連性を検証している。さらに、上行大動脈置換術が実施される症例に関しては、せん断応力の高部位と低部位で大動脈組織のRNAを抽出することを目的として、上行大動脈壁の内膜~中膜組織を採取している。抽出したRNAを用いて、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析を行う。2019年3月までに、大動脈二尖弁症例の患者検体は8例採取しており、今後も引き続きCFD解析と試料収集を継続する。症例数12例-15例を目標としており、試料採取終了後、遺伝子解析研究の実施行程に移行する予定である。 また、首都大学東京坂元尚哉准教授研究室とのウシ/ヒト大動脈細胞(血管内皮細胞/血管平滑筋細胞)を使用したin vitro研究も今後継続して実施し、高せん断応力が上行大動脈壁の中膜・内膜細胞に及ぼす生体反応を、多角的に検証する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、共同研究機関である名古屋工業大学中村研究室と共同で、大動脈二尖弁症例の画像データと大動脈検体を使用した研究を継続する予定である。 具体的には、手術治療を施行する大動脈二尖弁症例と、上行弓部大動脈拡大がなく大動脈弁が正常な対照群を研究対象として、phase-contrast MRIにより諸処の血流量を計測する。さらに、造影CTデータも併せて使用し、専用画像解析ソフトウエア(SCRYU, Software Cradle Co. Tokyo, Japan)によるCFD血流解析を施行し、せん断応力を含めた血行力学因子の計測と血行力学パラメーター分布マップの構築を行う。これに基づいて、摘出する大動脈検体から、血行力学パラメーターの高発現部位と低発現部位の大動脈壁の構造変化を組織学的に解析する。さらに、内膜・中膜組織からRNAを抽出して、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析を実施する。遺伝子発現情報は、専用の解析ソフト(Subio Platform V1.22, Subio Inc, Amami, Japan)でバイオインフォマテクス解析を実施し、大動脈拡大をもたらす分子細胞学疾患経路の解明を目指す。その後、validation実験もRNA・タンパク質レベルで実施する予定である。 また、首都大学東京坂元研究室とも共同で、大動脈壁細胞(血管内皮細胞・血管平滑筋細胞)を使用するin vitro実験(大動脈内壁への衝突流を再現する流れ負荷回路)を引き続き行い、上記遺伝子発現解析研究との関連性を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した主な理由としては、本研究は、患者検体が一定数ないと実施できない遺伝子解析研究が研究の主体であるため、2018年度は患者検体を採取するための期間であったことが挙げられる。他には、新規の血流解析用のソフトウエアは購入せずに、既存の臨床画像データを使用したCFD解析実験の改良や、phase-contrast MRIデータを使用しない新規解析システム構築のための予備実験を行ったことなども挙げられる。 繰り越し金を含めた2019年度の使用額は約230万円である。本年度の関連研究への費用に関してはCFD解析に必要な専用ソフトウエアの購入に20万円、RNA抽出に関する消耗品の購入に30万円、DNAマイクロアレイ関連経費に80万円、遺伝子発現解析ソフトウエアの導入に40万円、in vitro実験に関連する消耗品の購入に30万円、学会発表・研究会議出席への旅費に30万円程度の支出を予定している。
|