閉塞性動脈硬化症(PAD)に対する保存的治療である運動療法では、最大歩行距離が改善することは観察されている。一方、安静時ABI(下肢分節血圧比:下肢血圧/上腕動脈血圧)の改善(上昇)が少ないことも、しばしば臨床上経験する。こうした運動療法による症状の改善の根拠となる側副血行路発達のメカニズムは、解剖学的あるいは生化学的に一部解明されている。しかし、末梢神経系と血管新生や側副血行路形成が、相互にどのように関連し、かつ、その発達に関与しているのかは、解明されていない。 本研究では、「神経活動と末梢血流の多角的光学計測法」、すなわち、「細胞電位活動の光学的イメージング法」と「内因性光学イメージング法による血流評価法」を末梢経-骨格筋標本、あるいは末梢神経-血管標本に適用し、側副血行路発達と神経活動がどのように関与しているかを解析し、PAD 患者に効率的な保存的療法の再考を行うことを目的とした。 昨年度から本年度にかけて、これまでの結果に基づき、さらに研究目的に合ったモデル標本の確立を目指して実験・解析を行った。血管を制御する自律神経系のうち交感神経に焦点をあてきた。これまでの鶏胚による実験研究では、標本が小さく脆弱であることから十分な標本を得ることには至らなかった。一方、ラット(生後5-6週齢)の交感神経幹を標的とした標本では、比較的充分な長さの交感神経幹が得られ、さらに実験を進めることになった。標本を膜電位感受性色素NK2761によって染色を行ったところ、交感神経幹が十分に染色された。その結果、交感神経幹の電気刺激により交感神経節からシナプス電位を記録することに成功した。
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