動脈・静脈グラフトに関する研究では、プロスタノイド誘導体が内膜肥厚を始めとするグラフト不全を予防することが示されてきたが、その作用機序は明らかになっていない。そこで、われわれはプロスタノイド受容体に関する発生学的な知見に基づいて、「血管リモデリングの過程で脱分化した血管平滑筋細胞にプロスタノイド受容体が発現し、動脈・静脈グラフトリモデリングに関与している」との仮説を立て、動物モデルにより証明した。 プロスタノイド誘導体として血小板凝集阻止作用、血管平滑筋弛緩作用を有するprostaglandin E1(PGE1)及びprostacyclin(PGI2)に着目し、その受容体であるEP2及びIPについて検討した。ラット自家静脈移植動物モデルを作成し、1)real-time quantitative PCRによるEP2及び IP mRNAの定量、2) SDS-PAGE 及び semi-quantitative western blotting法によるEP2及びIPタンパク質の定量、3)二重免疫染色によりEP2及びIPタンパク質の局在を同定した。EP2 mRNAは移植後28日目まで2相性に発現し、EP2タンパク質は14日目をピークに28日目まで発現していた。IP mRNAは4日目をピークに発現し、IPタンパク質は4日目をピークに発現していた。EP2及びIPタンパク質は脱分化した血管平滑筋細胞に発現していた。 以上から、静脈グラフトではグラフトリモデリングの過程でEP2及びIPが脱分化した血管平滑筋細胞に発現し、その作用機序からグラフトリモデリングに関与していると推測され、われわれの仮説の一部が証明された。現在、ラット自家静脈移植動物モデルに浸透圧ポンプを植え込み、PGE1誘導体やPGI2誘導体を持続投与し、PGE1及びIPのグラフトのリモデリングに対する効果を検討している。
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