研究課題/領域番号 |
17K10768
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 正史 日本大学, 医学部, 教授 (80382927)
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研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
大幸 俊司 日本大学, 医学部, 助教 (20748149)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 急性大動脈解離 / 免疫応答 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、急性期の炎症反応だけでなく、疾患発症の機序解明も目指した急性大動脈解離症例(N=8)と移植ドナー由来の健常者(N=9)の大動脈組織の網羅的遺伝子解析研究成果のまとめを行い、論文発表した(Eur J Cardiothorac Surg. 2017 Oct 1;52(4):810-817)。DNAマイクロアレイによる解析結果では、regulation of inflammatory response, extracellular matrix, growth factor activityに関連する遺伝子群の変動が両群間で顕著で、MMP代謝に関連するTIMP3・TIMP4, JAK2, PDGFA, VEGFAなどが疾患発症に関連する遺伝子群として同定された。さらにIngenuity pathway analysisでは、TNF-aとTGF-bが疾患発生cascadeの上流に位置するregulatorとして同定された。in vitroの追加実験の結果、ヒト大動脈平滑筋細胞にTNF-aを添加することによって、TIMP3・VEGFA遺伝子の発現が有意に変化する結果が得られた。尚、ヒト大動脈血管内皮細胞に関しては、TNF-a添加により、標的遺伝子群の発現変化は誘導されなかった。これらの結果は、バイオインフォマティクス解析の妥当性を示すとともに、大動脈中膜組織における慢性炎症が疾患発生に関連する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記した研究結果を踏まえ、日本大学と共同研究機関である自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、疾患発症後の免疫応答を解明する研究を、急性期炎症に関与する好中球と単球/マクロファージを中心に現在実施している。 手術前の急性A型大動脈解離症例の血液検体から、まず、血清成分を分離後凍結保存する。その後、MACS細胞分離システム(ミルテニーバイオテク社)を用いて、好中球と単球を精製し、好中球に関してはフローサイトメトリーで細胞の活性化(CD62/CD66など)を評価し、単球に関してはRNAを抽出している。細胞分離に関しては、現在まで98%以上と高い精度で安定して両細胞を分離することに成功している。 急性大動脈解離は大動脈組織の急性炎症性疾患であり、発症後の好中球増多が予後に影響を及ぼすことが近年報告されている(Perfusion. 2017 May;32(4):336-337, Expert Rev Mol Diagn. 2015;15(7):965-70)。しかしながら、ヒト検体を用いて炎症反応の機序を細胞レベルで解析した研究は国内外を通じて報告例がなく、本研究の新規性は高い。今後は破裂群と非破裂群、白血球増多群と非増多群などの組み合わせで、疾患発症後急性期の免疫応答の相違を、各細胞レベルで多角的に検証する方針である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、急性A型大動脈解離症例の手術前の血液検体を使用した全身性の免疫応答に関する研究を継続する予定である。具体的には分離した好中球に関しては、細胞の活性化だけでなくアポトーシスの程度も評価する。単球に関しては、フローサイトメトリーによるintracellular cytokine stainingを行い、TNF-a・IL-1・IL-6を中心に、大動脈破裂群と非破裂群で炎症性サイトカイン/ケモカインの発現に差があるかタンパク質レベルで検証する。さらに、抽出したRNAを使用してDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を、大動脈破裂群 vs. 非破裂群で網羅的に行い、qPCRでも評価する予定である。血清成分に関しては、マルチプレックスアッセイキット(メルクライフサイエンス社)を使用して、炎症性サイトカイン・ケモカイン濃度の計測を網羅的に実施する。上記の網羅的タンパク質・遺伝子発現解析で関連分子のクラスタリングを行い、大動脈解離発症後、大動脈破裂にまで進展する機序の解明を目指す。また、急性A型大動脈解離の手術中に大動脈検体も摘出し、免疫組織染色も行い、大動脈壁組織に浸潤する炎症細胞のプロファイリングも組織学的に行う予定である。 これら臨床検体を使用した分子細胞学的研究だけでなく、周術期の炎症反応の推移に関する後ろ向き観察研究も多施設共同で行い、急性大動脈解離における急性期免疫応答とその意義に関して、臨床データからも評価する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初の予定と比較して、40万程度の残金があり、次年度使用額が発生した。次年度使用額が発生した主な理由は、本研究を開始する以前に、予備実験を行う期間が必要であったこと、予備実験後に本研究申請を行ったため、当該研究施設の倫理委員会の承認までに時間を要したことが主な原因である。 繰り越し金を含めた平成30年度の使用額は約160万円である。本年度の関連研究への費用に関しては、好中球を分離するために使用するMACS細胞分離に関するビーズなどの消耗品の購入に30万円、フローサイトメーターの炎症性サイトカイン・ケモカインの抗体費用に20万円、マルチプレックスアッセイ(メルクライフサイエンス社)に50万円、DNAマイクロアレイ関連経費に20万円、また、急性大動脈解離の最新の診断、治療方法についての知見を広げ、さらに追加実験などのアイデアを得るために国内学会、国際学会などに参加するための旅費、参加費やその他消耗品購入費に40万円程度を予定している。
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