研究課題/領域番号 |
17K10768
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 正史 日本大学, 医学部, 教授 (80382927)
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研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
宇野澤 聡 日本大学, 医学部, 助教 (60451324)
大幸 俊司 日本大学, 医学部, 助教 (20748149)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 急性大動脈解離 / 免疫応答 / 好中球 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、まず、当グループで実施した急性A型解離症例466例(平均65.0歳)のデータベース構築を行い、白血球(WBC)非上昇型急性大動脈解離の臨床像の解析を行った。入院時WBCの中央値(四分位範囲)は11.4(8.7-14.8)×10e9/Lであり、9.0×10e9/L以下を正常値と定義した。入院時WBCにより、非上昇群(n=119, 平均:6.9×10e9/L)・上昇群(n=347, 平均:14.1×10e9/L)に分類後、患者特徴・解剖学的所見・血液検査を比較検討した。WBC非上昇群は上昇群と比較し、高齢(中央値:68.6歳 vs. 63.8歳, P<0.001)であったが、性別・遺伝背景に差はなかった。解剖学的には、正常群で偽腔血栓閉塞型の頻度が高く(30% vs. 22%, P=0.066)、解離進展範囲では腸骨動脈進展例が少なかった(28% vs. 46%, P<0.001)。血液検査(WBC非上昇群vs.上昇群)は、血小板(17.1 vs.19.2× 10e9/L, P=0.003)・Dダイマー(36.5 vs. 77.4 ug/mL, P=0.003)においても有意差を認めた。本研究結果は、第47回日本血管外科学会学術総会(2019年5月名古屋)で発表予定である。また、偽腔血栓閉塞型では、凝固専用系の活性化が軽度であることも、平成30度に発表した論文で明らかにした(J Am Heart Assoc. 2018.7. pii: e009144)。 さらに既保存の急性A型大動脈解離症例の手術前の血液サンプルから、遺伝子発現解析用のRNA抽出を開始した。BioanalyzerでのRIN値8-9.5の高品質のRNAが抽出できており、網羅的遺伝子発現解析実験に使用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記した研究結果を踏まえ、日本大学と共同研究機関である自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、疾患発症後の免疫応答を解明する研究を、急性期免疫応答に関与する好中球を中心に実施している。 手術前の急性A型大動脈解離症例の血液検体から、MACS細胞分離システム(ミルテニーバイオテク社)を用いて、好中球を精製し、フローサイトメトリーで細胞の活性化(CD62/CD66など)やアポトーシスを評価する。細胞分離に関しては、現在まで98%以上と高い精度で安定して両細胞を分離することに成功している。また、遺伝子発現解析用の血液検体も疾患群・対照群(健常者)合わせて50例以上採取しており、今後RNA抽出を行い、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を実施する予定である。 急性大動脈解離は大動脈組織の急性炎症性疾患であり、発症後の好中球増多が予後に影響を及ぼすことが近年報告されている(Perfusion. 2017;32:336-337, Expert Rev Mol Diagn. 2015;15:965-70)。また、偽腔血栓閉塞型では、凝固専用系の活性化が軽度であることを当グループが明らかにした(J Am Heart Assoc. 2018.7. pii: e009144)。当グループの臨床研究結果から、偽腔形態や大動脈解離の進展範囲が、疾患発症後の免役応答に影響を及ぼす可能性が示唆されており、今後、大動脈解離における急性期免役応答の機序を、臨床データも含めて、多角的に検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、急性A型大動脈解離症例の手術前の血液検体を使用した全身性の免疫応答に関する研究を継続する予定である。具体的には分離した好中球に関しては、細胞表面抗原のフローサイトメトリー解析法を用いて、細胞の活性化だけでなく、アポトーシスの程度も評価する。さらに、抽出したRNAを使用してDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を、大動脈破裂群 vs. 非破裂群および白血球非常群 vs. 上昇群で行い、qPCRでも評価する予定である。血清成分に関しては、MILLIPLEXマルチプレックスアッセイキット(メルクライフサイエンス社)を使用して、炎症性サイトカイン・ケモカイン濃度の計測を網羅的に実施する。網羅的タンパク質・遺伝子発現解析で関連分子のクラスタリングを行い、大動脈解離発症後、大動脈破裂にまで進展する機序の解明を目指す。また、急性A型大動脈解離の手術中に大動脈検体も摘出し、免疫組織染色も行い、大動脈壁組織に浸潤する炎症細胞のプロファイリングも組織学的に行う予定である。 これら臨床検体を使用した分子細胞学的研究だけでなく、周術期の炎症反応の推移に関する後ろ向き観察研究を多施設共同で継続して行い、急性大動脈解離における急性期免疫応答の特徴を臨床データからも評価し、論文発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は当初の予定と比較して、27万円程度の残金があり、次年度使用額が発生した。次年度使用額が発生した主な理由は、平成30年度は研究資料採取を主として行ったためであり、繰り越し金を合わせて次年度、網羅的遺伝子/タンパク質発現解析実験を施行する予定である。 繰り越し金を含めた平成31年度の使用額は約147万円である。本年度の関連研究への費用に関しては、MACS細胞分離に関するビーズなどの消耗品の購入に10万円、フローサイトメーターの抗体費用に20万円、MILLIPLEマルチプレックスアッセイに50万円、DNAマイクロアレイ関連経費に50万円、その他消耗品購入費とバイオインフォマティクス解析費用に20万円程度を予定している。
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