研究課題/領域番号 |
17K10768
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 正史 日本大学, 医学部, 教授 (80382927)
|
研究分担者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
田岡 誠 日本大学, 医学部, 助教 (20814213)
大幸 俊司 日本大学, 医学部, 助教 (20748149)
宇野澤 聡 日本大学, 医学部, 助教 (60451324) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 急性大動脈解離 / 白血球 / 炎症反応 |
研究実績の概要 |
平成31年/令和1年度は、緊急手術を施行した急性A型解離症例466例の臨床データを使用した後方視野的研究を行なった。まず、大動脈解離の末梢側進展範囲に基づき白血球(WBC)値の分布を解析したところ、WBC値の中央値[四分位範囲](×103 /μl) は、上行大動脈限局群:10.4 [8.1, 13.9]・腹部大動脈伸展群:11.1 [8.2, 13.7]・腸骨動脈進展群:13.3 [9.8, 15.9] (p<0.001)と有意差を認め、大動脈解離の形態が末梢血WBC増多に影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに、過去文献(Medicine, Baltimore. 2015; 94: e1761)に基づき、入院時WBC:11.0×103 /μlをcut-off値として、入院時WBC値よりWBC上昇群(n=255)と非上昇群(n=211)に分類し、WBCが治療成績に及ぼす影響を調査した。WBC上昇群は非上昇に比べ、高齢(中央値:68.3歳 vs. 62.3歳, p<0.001)であったが、性別・遺伝背景に差はなく、臓器潅流や循環動態にも差は認めなかった。血液データでは、Dダイマー濃度がWBC上昇群で増加していた(中央値:30.1ng/mL vs. 18.0mg/mL, p=0.005)が、PT-INR・APTT値に差はなく、在院死亡率はWBC上昇群:7.5% vs. WBC非上昇群:10.9%と同等であった(p=0.19)。本研究成果は、第47回日本血管外科学会学術総会(令和1年5月名古屋)で発表するとともに、学術論文(PLoS One. 2020 Feb 6;15(2):e0228954)で報告した。 さらに急性大動脈解離症例の血液検体から、遺伝子発現解析用のRNA抽出と血漿成分の抽出を継続して行っている。BioanalyzerでのRIN値8-9.5の高品質のRNAが抽出できており、遺伝子発現解析実験に使用する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記した研究結果を踏まえ、日本大学と共同研究機関である自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、疾患発症後の免疫応答を解明する研究を、急性期免疫応答に関与する好中球を中心に実施している。 手術前の急性A型大動脈解離症例の血液検体から、MACS細胞分離システム(ミルテニーバイオテク社)を用いて、好中球を精製し、フローサイトメトリーで細 胞の活性化(CD62/CD66など)やアポトーシスを評価する。細胞分離に関しては、現在まで98%以上と高い精度で安定して両細胞を分離することに成功している。 遺伝子発現解析用の血液検体も疾患群・対照群(健常者)合わせて50例以上採取しており、今後RNA抽出を行い、定量的RT-PCRなど遺伝子発現解析を実施する予定である。尚、急性大動脈解離は併存する心タンポナーデや臓器潅流障害により多彩な臨床像を呈する。大動脈解離に基づく全身性の炎症反応を解析するためには、循環不全や臓器潅流障害が及ぼす影響を除外する必要性がある。このため、急性A型解離症例の中でも、臓器潅流障害や循環不全がないPenn分類 Aa群を対象にするため、解析対象症例の収集に時間を要し、研究プロジェクトの進行に遅滞を生じる結果となった。令和2年度以降、急性A型解離だけでなく、急性B型解離も研究対象に加える方針となったため、今後も疾患発症急性期の血液検体の採取を継続し、早期の実験遂行を目指す方針である。尚、今後の進捗状況により、血栓閉塞型急性大動脈解離症例の急性炎症反応を追加解析することも検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、急性大動脈解離症例の疾患発症早期の血液検体を使用した全身性の免疫応答に関する研究を継続する。尚、研究対象は臓器潅流障害及び循環不全を合併しない症例として、急性A型解離症例だけでなく、急性B型解離症例からも血液検体を日本大学医学部附属板橋病院と自治医科大学附属さいたま医療センターで採取する。 分離した好中球に関しては、細胞表面抗原のフローサイトメトリー解析法を用いて、細胞の活性化だけでなく、アポトーシスの程度も評価する。さらに、抽出したRNAを使用してDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を、大動脈破裂群 vs. 非破裂群および白血球非常群 vs. 上昇群で行い、定量的RT-PCR法でも評価する予定である。血清成分に関しては、MILLIPLEXマルチプレックスアッセイキット(メルクライフサイエンス社)を使用して、炎症性サイトカイン・ケモカイン濃度を計測する。網羅的タンパク質・遺伝子発現解析で関連分子のクラスタリングを行い、大動脈解離発症後、大動脈破裂にまで進展する機序の解明を目指す。 また、血漿成分からmicroRNAを抽出して、大動脈解離に起因する炎症pathwayに関与するmicroRNAを同定し、新規バイオマーカーとしての有用性を検証する。 これら臨床検体を使用した分子細胞学的研究だけでなく、急性期の炎症反応の推移に関する後ろ向き観察研究も多施設共同で継続して行い、大動脈解離における急性期免疫応答の特徴を臨床データからも評価し、論文発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成31年/令和1年度は当初の予定と比較して、62万円程度の残金があり、次年度使用額が発生した。次年度使用額が発生した主な理由は、平成31年度は研究資料検体の採取を主として行ったためであり、今年度、この繰り越し金を財源として、遺伝子/タンパク質発現解析実験を施行する予定である。 本年度の関連研究への費用に関しては、フローサイトメーター抗体費用に10万円、MILLIPLEマルチプレックスアッセイに30万円、PCR経費に10万円とバイオインフォマティクス解析費用に10万円程度を予定している。DNAマイクロアレイに関しては60万円程度の費用を要する見込みで、他の研究費を財源とする方向で検討している。
|