研究課題
本研究の目的は、大動脈解離における免疫制御分子Sykの役割を解明し、解離増悪の病態評価と制御療法を実現することである。申請者はB細胞活性化と炎症細胞活性化の両方に関わるSykの機能を解明することで解離病態の理解が飛躍的に進み、解離病態の評価や壁破壊の増悪阻止が可能になると着想した。免疫制御分子Sykが大動脈解離の増悪に中心的な役割を果たすという仮説のもと、B細胞、Sykによる解離病態制御機構を解明することを目的とする。申請者らは最近、コラーゲン架橋酵素阻害薬BAPNとアンジオテンシンIIの持続投与により2週間で解離が発症し壁破壊が増悪するマウスモデルを開発した。マウス大動脈解離病態とSykの関与を観察するために、野生型および先天性B細胞欠損マウスで解離モデルを作成した。野生型と比較して先天性B細胞欠損マウスでは解離が抑制される傾向がみられ、大動脈解離にSykが関与していると示唆された。また、野生型マウスにSyk阻害薬を投与した群では、非投与群と比較して病変長が長く、カプランマイヤー法で有意な生存率の低下を認めた。マウス解離組織の免疫化学染色では、解離部分に強いリン酸化Sykを認めた。さらに、細胞種を同定するために平滑筋アルファアクチンとリン酸化Sykの蛍光2重染色を実施した。解離部分に集積した炎症細胞でリン酸化Sykを認め、解離断端を中心として平滑筋にもリン酸化Sykがみられた。マウス解離モデルにおいて、先天性B細胞欠損マウスで軽症、Syk阻害薬投与群では重度と解離病変の表れ方に差がみられ、Sykは大動脈解離と大動脈瘤では作用方向が異なるように思われる。この結果に着目し研究を進めることで、大動脈解離と大動脈瘤の病態の違いが解明できる可能性がある。ヒト大動脈解離に関しては、今年度は主にStanfordA型解離の手術で組織・末梢血を採取することに専念する。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究経験により、モデル作成、データ収集、データ解析など技術的な面に問題はなく、申請書に示したロードマップに従い研究を進めている。
当初、Sykは大動脈解離を増悪させると仮説をたてていたが、今年度の実験により必ずしもそうではないことが示唆された。B細胞由来のSykが存在しない場合、全身のSykが存在しない場合で大動脈解離の重症度に差が見られたことに着目し、次年度からの検討項目を適宜変更し研究を進めていく予定である。
実験ノウハウが確立していたため、使用する試薬が節約できたためと考える。次年度以降はヒトサンプルを用いた実験が控えており、それらに使用する予定である。
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Journal of the American Heart Association
巻: 7 ページ: e007389
巻: 7 ページ: e007750
PLos ONE
巻: 12 ページ: e0185923