研究課題/領域番号 |
17K10778
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長山 和弘 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00647935)
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研究分担者 |
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
佐藤 雅昭 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (00623109)
安樂 真樹 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (70598557)
桑野 秀規 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60772324)
似鳥 純一 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40424486)
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
松下 博和 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (80597782)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺癌 / 次世代シーケンサー / 網羅的遺伝子解析 / TCGA / イムノグラム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、肺癌における腫瘍特異的遺伝子変異産物により生ずるneoantigen を標的とした癌ワクチン治療と腫瘍内免疫抑制性の環境に対する制御法を併用した革新的ながん免疫治療を構築することである。手術で切除された肺癌組織からDNA/RNA を抽出し、次世代シーケンサーを用いたエクソーム解析を実施して、腫瘍特異的遺伝子変異のリストからMHC ペプチド結合能に基づいてneoantigen の候補を同定する。また、トランスクリプトーム解析により腫瘍内免疫状態のプロファイリングを行い、免疫抑制性の環境に関わる遺伝子発現を明らかにして、その制御法を検討する。 我々は、腫瘍内微小環境に対する新たな多角的解析アルゴリズムを前研究の一環として開発した(J Thorac Oncol 2017;12:791-803)。最初に報告した解析法では、1コホート内での各項目の大小を評価する手法を用いたが、その方法では症例の追加のたびに全症例のデータを用いて再解析する必要があり、またコホート外の症例と直接比較することができないという弱点を有していた。そこで今年度は、すでに一次解析済みの次世代シーケンスデータを使用し、解析手法をバージョンアップし、アルゴリズムの標準化を行った。The Cancer Genome Atlas (TCGA)の遺伝子解析データを用いることで、TCGAデータを基準としたスコアリング方法を確立した。今後は、評価項目およびスコアリング法の最適化に向けて、マウスを用いた検証も行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最適な癌免疫治療を行うためには、Cancer-Immunity Cycleのどのステップが障害されているかを、患者ごとに適切に評価することが望ましい。我々は、瘍内微小環境に対する新たな多角的解析アルゴリズム(Immunogram for the Cancer-Immunity Cycle)をこれまでに開発し、報告した。しかしながら、当初考案した解析法では1つのコホート内での各項目の大小を評価する手法を用いたが、その方法では症例の追加のたびに全症例のデータを用いて再解析する必要があり、またコホート外の症例と直接比較することができないという弱点を有していた。経時的評価を行うにあたっても、同一症例の追加データ(例、治療後のデータ)が発生した場合に、以前のデータ(例、治療前のデータ)について再解析が必要となり、同じraw dataに対して複数のimmunogram が発生してしまうという扱いづらさがあった。そこで今年度は、基盤研究B 15H04942(H27-30,代表 中島淳)、基盤研究C 26462124(H26-29,代表 長山和弘)で一次解析済みの20例の肺癌シーケンスデータを用いて、アルゴリズムの標準化に取り組んだ。The Cancer Genome Atlas (TCGA)に登録された肺癌の発現解析データおよび腫瘍特異的変異データをダウンロードした。自験例について、TCGA解析パイプラインで公表されているものと同じソフトウェアを用いて、発現解析および腫瘍特異的変異の解析を行った。さらに、TCGAコホートと同じ解析法でCancer-Immunity Cycleに関連した各項目のスコアを算出した。そしてそのスコアを、TCGAデータにおける平均・標準偏差を用いて標準化した。 得られた成果を日本呼吸器外科学会総会、日本癌学会総会等で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
TCGAデータという世界中からアクセス可能な公開データにおける平均・標準偏差を用いる方法にバージョンアップしたことで、自験例のみならず他施設での臨床試験データに対する解析も可能となり、相互の比較が容易となった。治療前後、初発と再発時、原発巣と転移巣など、様々な時間・空間的評価を行うことは、依然として多くのベールに包まれた癌免疫機構を解明していくにあたり、不可欠である。そのような時間・空間的な癌免疫状態の変化を可視化する上でも、標準化したアルゴリズムは有用である。これまでに引き続いて肺癌手術検体の採集・保存を継続し、今後時系列での解析を念頭に再発症例の生検検体の採集も行っていく。 さらに、評価項目およびスコアリング法の最適化に向けて、マウスを用いて検証を行う。構築したアルゴリズムが腫瘍内微小環境の経時的変化を正確に把握できるか、C57Bl/6 マウス腫瘍モデルを用いて検証する。LLC をマウスに皮下移植し、異所性肺癌モデルを作成する。マウス用抗PD-L1 抗体または抗CTLA-4抗体を投与し、腫瘍の増殖および免疫応答について評価する。マウス肺がん細胞株(LLC)は、免疫チェックポイント阻害剤単剤での効果が乏しいことが知られている。最終的に、我々が前研究において構築したneoantigen 候補解析パイプラインを用いて、8-11mer のneoantigen 標的ワクチンを設計、作成し、これを皮下投与することで、チェックポイント阻害薬と肺癌個別化ワクチンの併用効果を検証する予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
再発症例の検体採取、核酸抽出、次世代シーケンシングを予定したが、検体が得られなかった。今年度は過去にシーケンス・一次解析済みのデータを使用して解析アルゴリズムの改善を推進した。平成30年度は、解析用端末の更新、次世代シーケンシングの追加、マウス実験の開始を予定しており、今年度未使用額は次年度に使用する方針である。
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