研究実績の概要 |
肺癌細胞は、自らPD-L1を過剰産生することで免疫攻撃から逃れており、増殖・生存を可能としている。しかし、PD-L1の発現を制御する分子メカニズムはいまだ分かっていないのが現状である。これまでの基礎的および臨床学的論文では、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害する中和抗体は、PD-L1を高発現する肺癌細胞に対してのみ効果的であり、PD-L1の発現量が低い肺癌細胞には劇的な抗がん効果が認められないとの報告結果がある。そこで我々は、肺癌細胞におけるPD-L1の発現制御メカニズムに着目して、これまで生化学および分子生物学的な解析を進めてきた。その結果、NEDD8を中心とするタンパク質翻訳後修飾シグナルが、PD-L1の発現を制御することを突き止めた。さらにその詳細な分子機構を明らかにする目的で、前年度に実施した網羅的遺伝子発現解析から見えてきた細胞内代謝関連遺伝子の関連性について詳細に調べたところ、NEDD8-activating enzyme1の阻害剤であるMLN4924処理によって酸性代謝物の産生亢進が認められ、これがPD-L1発現制御の鍵でとなることを突き止めた。この表現型はNEDD8の主要な標的タンパク質であるCUL1, CUL2, CUL3, CUL4, CUL5などのE3 ligaseに対するsiRNAの細胞内導入では全く認められなかったことから、いまだ報告されていない新しい標的タンパク質への修飾を介して免疫システム回避に必要な機能であることが示唆された。我々が見出したこの酸性代謝産物とのPD-L1陽性の肺癌細胞の組織局在性および発現量の相関性については、今後も継続して解析を進めていく予定としている。
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