当研究の背景としては、胸部手術に関する術後癒着予防は後れを取っており、肺切除術後の再肺切除手術の約3分の2の症例で中等度以上の胸腔内癒着がみられる。特に初回の肺切除術が肺門部(肺血管および気管支)での操作を伴う場合、再度肺門部の操作を必要とする手術の成績が不良である。つまり、初回肺切除手術の肺門部における術後癒着を予防することにより、再手術の成績を改善する可能性が高いため、当研究では、動物実験によりその仮説を検証することを目的とした。 まず、ネオベールシート(生体吸収性の組織補強材)で肺門部を覆い、周囲組織と隔離したところ、コントロール群と比較して術後の癒着防止効果は見られなかったため、現在市販されており、腹部手術で使用されいているアドスプレー(腹部の術後癒着を防止する噴霧生体吸収性素材)を肺門部に噴霧したが、やはり癒着防止は見られなかった。 最終年度において複数の理由で大動物モデルの使用が困難となった為、小動物モデル(ラット)に切り替えて以降の実験を行なった。素材に関してもスプレータイプではなく、シート状の生体吸収性素材を再度使用することとした。現在市販されており、主として腹部手術で使用されている酸化再生セルロース製のシート(インターシード)は、臨床での使用実績がある。数例においてまず開胸部位において癒着防止効果を確認した。今後同素材を用いて肺門部癒着防止効果の評価に進む予定である。
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