これまで、ヒト切除検体を用いた胸腺悪性腫瘍におけるLAT1発現の臨床的意義に付き検討した結果、WHO分類のtype AからB3までの胸腺腫にはLAT1の発現は認めず、胸腺癌にのみLAT1の発現を認めることからLAT1の発現は、胸腺腫と胸腺癌を鑑別する病理検査において有用なマーカーになりうること、LAT1発現パターンには膜型、細胞質型の2種類があり、膜型でその予後が悪いことからLAT1の発現パターンが予後予測因子となりうる可能性があることを、論文報告した。 in vitroの解析においては、LAT1の阻害よりもHMG-CoA還元酵素阻害薬スタチンが、胸腺癌細胞株の増殖を顕著に抑制することを見出し、論文報告した。スタチンは、メバロン酸合成経路の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロール生成を抑制することから、脂質異常症治療薬として汎用されている。一方で近年、スタチンがいくつかのがんに対して抗腫瘍効果を示すことが証明されている。HMG-CoA還元酵素により生成されるメバロン酸からは、コレステロールの他にゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)などのイソプレニル基前駆体が生成され低分子GTPaseに結合して活性化(プレニル化)することでErkがリン酸化され、細胞増殖を亢進させる。我々はスタチンによる胸腺癌抑制はコレステロール合成阻害ではなく、プレニル化阻害に起因することも明らかにした。 また、胸腺癌患者の癌細胞におけるHMG-CoA還元酵素の発現が顕著に亢進している一方、正常胸腺上皮細胞ではほとんど認められないことを見出した。
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