研究課題
扁平上皮癌は口腔内・咽頭・喉頭・食道・肺・子宮頚部など体外との境界に近接した部位に多く発生することが知られており、病因としてウィルス感染など後天的・外的因子が誘因となっていると理解されている。胸腺癌の多くは扁平上皮癌であるが、胸腺は前縦隔に位置する臓器であり外界への直接の暴露は無く、他部位に発生する扁平上皮癌と比べて、解剖学的局在という観点からは例外的存在である。本研究は胸腺上皮性腫瘍の発症にウィルス既感染が関与している可能性を探り、発症機構を解明することを目標とした。関西医科大学附属病院の胸腺上皮性腫瘍切除検体(パラフィン包埋切片)を用いて、ウィルス関連遺伝子発現を測定した。解析はNanostring社のn Counter Analysis Systemを用いた網羅的解析で行った。胸腺癌、重症筋無力症合併胸腺腫、重症筋無力症非合併胸腺腫、胸腺過形成の4群において解析を行った。症例の背景疾患の潜在的影響、手術による影響、固定・保存状態の影響などを相殺するため、胸腺癌・胸腺腫例では、同一検体内での非腫瘍部分である正常胸腺組織を内的コントロールとして設定した。有力な候補に関しては腫瘍内部での発現局在を免疫染色で確認した。胸腺癌では既知のKIT遺伝子のほか、頭頸部扁平上皮癌での発現・予後因子として知られるPRAME遺伝子の発現増強が認められる事が明らかとなった。また重症筋無力症非合併胸腺腫での網羅的遺伝子解析を行い、胸腺癌と胸腺腫では遺伝子発現プロフィールが異なることを観察した。具体的にはPRAME遺伝子の発現は胸腺癌には認められるが胸腺腫では発現を殆ど認めないという結果であった。当初期待していたウィルス関連遺伝子については胸腺腫・胸腺癌とも特異的な発現は見いだすことはできなかった。
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