破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血は極めて重篤な疾患であり、早期脳損傷は、その予後に関与する最大の因子である。一方、大脳白質は哺乳類の脳の過半を占め、この障害は急性期脳虚血をはじめ多くの疾患で注目されている。くも膜下出血後の早期脳損傷は、一過性全脳虚血に類似した病態であると考えられているものの、その意義は現在までほとんど検討されていない。本研究は、くも膜下出血後早期脳損傷における白質障害の機序とその保護機構を解明することが目的であり、特にグルタミン酸、アデノシン三リン酸および酸化ストレスの関与に注目して検討を行った。 くも膜下出血モデルは、雄性C57Bl/6マウス(10-12週齢)を用い、フローセン麻酔下に頚部右内頚動脈から挿入した5-0ナイロン糸で前大脳動脈を穿刺し、作成した。出血後24時間に4%パラホルムアルデヒドで灌流固定を行い、脳を摘出した。脳底部の出血状況は4段階で判定した。ビブラトームで30マイクロメートルの薄切切片を作成した。白質障害の組織学的評価は、ルクソールファーストブルー染色、および抗SMI-32抗体(軸索損傷)や抗degraded myelin basic protein抗体(ミエリン変性)を用いた免疫染色で行った。くも膜下出血後24時間には、脳梁などの白質に軸索損傷やミエリン変性などを認め、同部位では活性化したアストロサイトが誘導され、ATP受容体(P2X7)の発現が亢進している傾向を認めた。
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