研究課題
本研究では、これまで培ってきたダイレクトリプログラミング技術を脳梗塞や神経変性疾患など多様な神経疾患への治療応用へ展開することが目的である。iPS細胞を誘導して神経系細胞を誘導するには少なくとも1-3ヶ月かかるのに比べ、このダイレクトリプログラミング法では2-3週間で神経系細胞を誘導することが可能である。in vivoで直接患者脳内のグリア細胞から目的の神経系細胞を誘導し神経ネットワークを再構築できれば、細胞移植治療で問題となる培地内の血清の持ち込みなどの感染リスクの回避できるなど利点が非常に多く、その成果の波及効果は高い。しかしながらまだこのダイレクトリプログラミング法によって誘導された神経系細胞の治療効果や腫瘍形成能は未知の部分が多く、in vivoの系を利用して評価していくことが非常に重要であると考えている。今回計画している具体的な研究項目は、①マウス脳内グリア細胞に直接転写因子を導入し神経系細胞に誘導するin vivo ダイレクトリプログラミングを行い、その治療効果とGlia-vascular unitへの影響の評価、 ②低侵襲な経静脈的投与による脳内への遺伝子導入技術の確立 の2つである。平成29年度は8-9週齢オスのC57B6マウスに30分間一過性中大脳動脈閉塞術を行い、その14日後にレトロウイルスベクターによる遺伝子導入を脳梗塞周辺領域に行い、またコントロール群として、中大脳動脈閉塞術を行っていないマウスにも同様の遺伝子導入を行った。現在、予定していたすべてのウイルスの脳実質への投与は終了しており、現在iN細胞がどの程度誘導され脳内で分化、生着するかを評価を進めているところである。また同時にこのダイレクトリプログラミング法で脳梗塞に対する治療効果があるのか、ローターロッド、コーナーテスト等を含む運動機能評価や脳虚血後の生存率を含めて評価を行っている。
2: おおむね順調に進展している
既に長期生存モデルを含め、マウス脳梗塞モデルならびに非梗塞マウスに対するiN細胞の誘導実験は終了しており、現在は運動機能評価ならびに一部は組織学的検討を行っている。
今後、①iN細胞がどの細胞から誘導されるのか。②どの程度の誘導効率なのか。③このダイレクトリプログラミング法でiN細胞を誘導することで脳梗塞に対する治療効果があるのか の3つの点を詳細に検討していく予定である。
iN細胞誘導後に腫瘍形成がおこるかどうかを調べるため、今回の実験では長期生存モデルを作成した。この長期生存モデルは、当初予定していた以上に長期観察を続ける必要があると判断し、今年度内の組織病理学的検討を行わなかったために次年度使用額が生じた。そのため、次年度に長期生存モデルの切片作成ならびに組織病理学的検討に研究費を使用する予定としている。
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Cell Transplant
巻: 26 ページ: 461-467
10.3727/096368916X692988.