研究課題/領域番号 |
17K10835
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩波 純 愛媛大学, 医学系研究科, 助教 (90624792)
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研究分担者 |
堀内 正嗣 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (40150338)
茂木 正樹 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (20363236)
閔 莉娟 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教(病院教員) (80726175)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンジオテンシンII2型受容体 / 臓器保護作用 / 脳虚血傷害 / AT2受容体関連タンパク |
研究実績の概要 |
古典的レニン・アンジオテンシン(RA)系の活性化は高血圧や糖尿病などの生活習慣病を誘導することが知られており、アンジオテンシンIIの受容体である1型(AT1)受容体の制御により臨床的に脳卒中や認知症など脳血管障害の発症を軽減することが報告されている。一方、アンジオテンシンIIの受容体の一つであるタイプ2(AT2)受容体はAT1受容体に拮抗する、つまり臓器保護効果を持ち、最近開発されたAT2受容体刺激薬であるCompound21(C21)を脳傷害後のマウスに投与すると脳梗塞巣を減少することを報告してきた。さらに、以前我々はこの様なAT2受容体の作用を説明するのに、AT2受容体のC-末端に特異的に結合する新規シグナル伝達機能調節物質ATIPをクローニングし、ATIPが核内転写調節因子としても作用し、血管リモデリングの改善だけでなく、神経保護作用に重要な役割を担っていることを報告し、脳障害時に保護効果があることが示唆された。 そこでATIP過剰発現マウス(ATIP-Tg)を用いて脳障害の進展について脳梗塞モデルマウスを用いて検討した。野生型マウス(WT)とATIP-Tgの比較では脳傷害に大きな差は認められなかったが、これらのマウスにC21を投与することで脳傷害の軽減が認められた。また、この軽減作用はWTに比べてATIP-Tgで強く、AT2受容体刺激がATIPにより増強されることが示唆された。このメカニズムを明らかにするために、脳傷害前後での脳表層の血流量を検討したところ、WTではC21投与により24時間後の血流量が増加していた。一方ATIP-Tgは脳虚血直後から脳血流量の減少が軽減していることから脳循環系にAT2受容体/ATIPが影響していることが示唆された。現在、この脳血流量の軽減効果について、Collateral circulationを中心に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
10週齢雄性ATIP過剰発現マウス(ATIP-Tg)と同腹子(WT)に中大脳動脈閉塞術(MCAO)を施行、脳梗塞モデルを作成し、24時間後の神経学的症状および脳梗塞サイズを測定したが、有意な差は認められなかった。これらのマウスにMCAOの2週間前からAT2受容体刺激薬(C21;10μg/kg/day)を投与することでWTおよびATIP-Tgともに軽減効果が認められた。特にATIP-Tgで軽減効果が強く認められ、C21による保護作用が増強していることが示唆された。そのメカニズムを検討するため、MCAO前後の脳表層血流量の変化を測定した。MCAO後の脳血流量の減少は、中大脳動脈中心部では全ての群で有意差は認められなかった。周辺部ではWT-C21群でMCAO直後の血流減少に変化はなかったが、24時間後の血流量が増加していた。一方、ATIP-Tg-C21群ではMCAO直後の脳血流量の減少が軽減しており、24時間後ではWT-C21群と有意差はなかった。この直後の血流量改善に着目し、Collateral circulationの発達について検討した。MCAO前のマウスにゼラチンを溶かした墨汁を灌流し、ACAとMCAおよびPCAとMCAのコラテラルの数を測定すると、WTとATIP-Tgで変化はなかったが、ともにC21の投与により増加傾向があり、さらにATIP-Tg-C21で増加する傾向があった。AT2受容体刺激による抗炎症作用についてreal-time RT-PCR法にて検討した。MCAO24時間後の炎症性サイトカイン、TNF-α、MCP-1 mRNAの発現は非梗塞側に比べ梗塞側で増加しており、C21を投与することで減少傾向が認められた。また、AT2受容体刺激による神経保護で作用するMMS2の発現はATIP-Tg、ATIP-Tg-C21投与群で非梗塞側に比べ梗塞側で増加していた。
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今後の研究の推進方策 |
AT2受容体/ATIPに脳保護効果があることが明らかとなり、この脳保護効果について、脳虚血後の血流改善が関与していることが示唆されたことから、現在Collateral circulationに着目して検討しているが、現在のところAT2受容体刺激薬の投与によりCollateralが増加する傾向があるという結果を得ているが、有意差はないため、サンプル数を増やし検討している。また、AT2受容体刺激のNOによる血管拡張作用について、eNOSのリン酸化についてWestern Blot法を用いて検討している。さらに詳細なメカニズムを明らかにするために細胞内シグナルについて検討する予定で、現在血管平滑筋細胞をこれらのマウスから単離・培養するための準備を進めている。 また、今後の研究について、レニン・アンジオテンシン系のProtective armであるACE2/アンジオテンシン(1‐7)/Mas受容体軸とAT2受容体/ATIPの相互作用について検討するためにATIP-Tgにアンジオテンシン(1-7)を投与し、WTとの比較を行うとともに、AT2受容体欠損マウスやMas受容体欠損マウス、これらのマウスの培養神経細胞を用いてATIPの核内移行について検討する予定である。 培養細胞については、ATIPの発現調節機構、ATIPの機能が特異的なリガンド、リン酸化、脱リン酸化などにより調節されている可能性に関する研究が遅れているので、細胞レベルで、ATIPに結合するシグナル伝達物質、転写調節因子のスクリーニングも合わせて進行していき、ATIPの標的遺伝子の転写調節因子としてのATIP結合部位を同定しすることを計画している。
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