研究課題/領域番号 |
17K10836
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
久門 良明 愛媛大学, 医学系研究科, 契約職員 (80127894)
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研究分担者 |
渡邉 英昭 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (30322275)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 浸潤細胞 / マイクログリア / インターロイキン3 / 顆粒球/マクロファージ-コロニー刺激因子 |
研究実績の概要 |
我々は、ラット梗塞脳には骨髄由来の細胞で多分化能をもち、神経保護的に働くマイクログリア(Iba1+/NG2+細胞)が浸潤することを明らかにした。ヒト脳梗塞組織にも類似の細胞が存在するが、ラットに比べて集積する細胞数が少なく、予後不良に関係していると考えられた。 そこで、ラット局所脳虚血モデルに、骨髄からの単球系細胞動員の促進と神経細胞保護効果を併せた治療法として、インターロイキン3 (IL-3:造血幹細胞の増殖・分化・活性化を調節)と顆粒球/マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF:起炎症サイトカインとしてマクロファージに特異的に作用)の混合皮下注射を行い、その効果を組織学的、機能的両面より確認することを計画した。そして、その機序を明らかにするために、浸潤細胞の数や局在、多分化能の有無、ならびに虚血巣での様々な起炎症性メディエータ、神経栄養因子、アポトーシス関連因子の発現を経時的に観察するとともに、骨髄を抑制した状況下での効果を確認することにした。 そして当該年度は、ラット局所脳虚血モデルを用いて、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射の治療効果を組織学的、機能的両面より検討した。その結果、MRIでの脳梗塞巣容積を減少させ、脳組織欠損の体積も縮小させ、水迷路試験での学習行動、運動能力などの機能改善もみられた。そして、real time PCR法ではマクロファージマーカーのNG2の発現が上昇し、免疫組織学的所見やFACSでは梗塞内のマクロファージが増加していた。また、CD86などのM1マーカーの発現は有意に低下していた。また、脳梗塞辺縁部の活性化マイクログリアのTNF-α、IL1β、iNOSなどの起炎症性マーカーの発現が低下していた。つまり、IL-3とGM-CSFの投与により、虚血脳へのマイクログリア浸潤が促進され、脳梗塞範囲が縮小し、機能的にも改善効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度(平成29年度)は、ラット中大脳動脈梗塞モデルを用い、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射による脳梗塞巣の縮小効果および神経機能の改善効果を確認した。さらに、その効果発現の機序の一部を明らかにした。 具体的には、ラットに中大脳動脈領域の脳梗塞を作製し、IL-3単独、GM-CSF単独、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射群、および偽薬(生食水)皮下注射群に分けた。なお、サイトカインないし生食水は虚血負荷直後(血流再開直後)より、1日1回5日間の皮下注射をした。各群のラットの脳梗塞範囲は、MRIにてT2強調像で経時的に1ヶ月後まで観察した。その結果、梗塞範囲はIL-3とGM-CSFの混合皮下注射群で最小であった。また、虚血負荷後2および4週目に、各群のラットに対して、運動機能試験(ロータロッドテスト)や認知能試験(モリス水迷路試験)を行なったが、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射群で最も良好であった。そして、 MRI検査と神経機能評価の終了後、各群のラット脳を摘出し、脳梗塞範囲、大脳半球面積左右比、視床面積左右比を組織学的に評価したが、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射群で梗塞範囲は小さく、大脳半球および視床面積の左右比は少なかった。そして、治療効果の機序を検討した結果、real time PCR法でマクロファージマーカーのNG2の発現が上昇し、免疫組織学的所見やFACSでは梗塞内のマクロファージが増加していた。また、CD86などのM1マーカーの発現は有意に低下していた。また、脳梗塞辺縁部の活性化マイクログリアのTNF-α、IL1β、iNOSなどの起炎症性マーカーの発現は低下していた。 つまり、IL-3とGM-CSFの投与により、虚血脳への組織学的、機能的改善効果が確認されたが、機序として虚血脳へのマイクログリア浸潤の促進と、その炎症反応抑制効果が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、IL-3、GM-CSFの脳保護効果の機序を詳細に明らかにする。平成30年度は、虚血脳における浸潤細胞数とその局在と共に、起炎症性メディエータ、神経栄養因子、アポトーシス関連因子の遺伝子および蛋白の発現を経時的に観察する。また、虚血巣より分離培養した浸潤細胞に免疫染色を行い、多分化能について検討する。具体的には、IL-3単独、GM-CSF単独、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射群、および偽薬(生食)皮下注射群で、虚血負荷後MRIで梗塞巣を評価しながら、1ヶ月後まで経時的にラット脳を摘出し、梗塞巣における起炎症性メディエータ(iNOS、IL1β、IL-18など)、神経栄養因子(IGF-1、HGF、TGFβなど)、アポトーシス関連因子(Bcl-xL、Gas 6、Protein S、MFGE 8など)の発現についてmRNAをRT-PCR法、蛋白をウェスタンブロット法で評価する。虚血負荷後MRIで梗塞を評価しながら、1ヶ月後まで経時的にラット脳を摘出し、梗塞巣における浸潤細胞の数とその局在と共に、起炎症性メディエータ、神経栄養因子、アポトーシス関連因子の局在を免疫組織学的に観察する。虚血負荷後、浸潤細胞の最も多い時期に(5日目)、両群ラットの脳を摘出し、虚血巣より分離培養したマイクログリアに免疫染色を行い、多分化能を観察する。 平成31年度は、骨髄由来の浸潤細胞の関与を明らかにするために、骨髄を抑制する5-FUを腹腔内注射し、IL-3とGM-CSF皮下注射の効果を確認する。具体的には、脳梗塞を作製して直ちに5-FUの腹腔内注射を行い、IL-3とGM-CSFの混合皮下注射群と生食皮下注射群に分け、虚血負荷後MRIで梗塞を評価しながら、各群ラットの生存率を評価する。死亡ラットと生存ラット(14日後)の脳を摘出し、脳梗塞範囲、大脳半球面積と視床面積左右比を組織学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用額を予算内におさめるため、購入する高額の薬剤(GM-CSF, IL-3)を必要最小限にした。そのため次年度使用額が生じた。この当該助成金は翌年度分として請求した助成金と合わせて、高額の薬剤購入にあてる計画である。
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