研究課題
当教室では、がん転移細胞が脳血液関門(blood brain barrier: BBB)を通過するメカニズムの解明を目指している。本学倫理委員会の承認を得て、転移性脳腫瘍の検体採取および初代培養細胞樹立を行いつつあり、現時点で3株の樹立に成功している(臨床倫理委員会 許可番号15062234)。実際の実験系では既存のがん細胞株をもちいており、初代培養細胞の使用は今後の研究課題である。肺がん細胞株をもちいたin vitroのBBBモデル実験を行った(動物実験委員会 承認番号0704190570)。具体的にはBBBモデルに肺がん細胞株を加え、脳血行転移を再現した系を構築し、経内皮電気抵抗 (transendothelial electrical resistance, TEER)やImmunoblot 法にてタイトジャンクションタンパクの検討を行い、転移促進因子あるいは転移阻害因子の検討を具体的に行った。その中でアストロサイトは腫瘍生存保護的に働くと考えられ、既存の報告に矛盾しないと思われた。一方ペリサイトは腫瘍増殖抑制的に働いていることが実験的に見いだされ、新知見と思われ論文として発表した(藤本ら、2019)。この実験系に対して網羅的解析を行う方針とし、RNAseqを行い(臨床倫理委員会 許可番号 18070906-2)、データ解析し、成果の一部を2019年脳腫瘍学会などで口頭発表した(氏福ら、2019)。現在論文投稿準備中である。転移巣と原発巣との生物学的挙動、遺伝子学的相違などを解析し、治療ターゲットを模索する基盤整備も試みているが難航している。転移性脳腫瘍の、もっとも頻度の高い原発巣である肺がんにターゲットを絞り、当院呼吸器外科と協力しながら倫理委員会承認を得て、肺がん原発巣の初代がん細胞株の樹立をひきつづき継続している(臨床倫理委員会 許可番号17091117)。
4: 遅れている
BBBモデルのラット由来のペリサイトゲノムを対象にすることで、ゲノム倫理指針の対象外と判断された。臨床倫理委員会申請で許可を得て、倫理面での不備は克服された。実験は実施中であり、一部概要を報告した。網羅的遺伝子解析の解析が完了し、学会発表を行った。元データをDDBJに登録した(アクセション番号DRA009932)。科研費給付期間の延長を申請し、現在論文投稿準備中である。
転移性脳腫瘍からの初代培養は3株以上の樹立に成功した。当初計画に記載のなかった肺がん初代培養細胞樹立については、実現の困難さがつづいており、引き続実験実施中である。BBBモデルでのwet実験は、ペリサイトが腫瘍増殖抑制効果を示す知見を見出し、RNAseqを行い、解析した。元データをDDBJに登録し、現在論文投稿準備中である。ターゲットとなる遺伝子等を選定し、knock down/out/in実験や、薬物スクリーニングなどは今後の課題となると思われる、今回の研究で少なくともその端緒はつかむことを目標とする。脳転移巣からの初代培養樹立実験、および難航している(意欲的課題である)原発巣(肺がん)からの初代培養における課題解決を目指す。上記研究計画が順調に進まなかった場合の副次課題も並行して進め、本研究から派生した成果についても順次発表する予定である。
目的とする実験、解析が若干遅れ、現在論文投稿準備中である。追加実験を要求される可能性があるため、次年度使用額が生じた。使用計画としては、論文作成、英文校正、投稿にかかわる費用、および追加実験を要求された場合の実験費用(試薬代、施設利用料など)の計上を予定している。
長崎大学 脳神経外科
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Neuro-Oncology Advances
巻: 1(Supplement 2) ページ: ii11-ii11
10.1093/noajnl/vdz039.050
Cell Mol Neurobiol
巻: 40(1) ページ: 113-121
10.1007/s10571-019-00725-0
https://www.nagasaki-nouge.jp/