研究実績の概要 |
本研究はスナネズミ海馬の全脳虚血後のニューロン新生に着目しており、本年度はポリコーム群タンパク質の中でもEzh2のノックダウンを行った。既報によれば、ポリコーム群タンパク質は、ヒストンメチル化を介して遺伝子の転写抑制を行い、胎生期の神経新生や神経回路網の形成、癌細胞の増殖等に重要な役割を果たすことが知られている。 申請者はアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus, AAV)ベクターに低分子干渉RNAを搭載し、脳定位固定装置下にスナネズミ海馬に局所投与した。申請者が本研究期間中にも報告した通り、AAVは分裂・非分裂細胞ともに良好な遺伝子導入が可能で、安定した発現が期待できるベクターである。AAV投与から2週間後、一過性全脳虚血を負荷し、さらに3週間後に組織学的評価を行った。AAV発現範囲の確認のため、低分子干渉RNAと同時に緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein, GFP)を発現する設計にしており、海馬歯状回全体に広いGFP発現を認めた。事前には申請者はEzh2のノックダウンによって海馬歯状回のニューロン新生が促進されることを予想していたが、実際の実験結果ではニューロン新生は抑制されていた。本研究により、Ezh2の発現抑制が海馬のニューロン新生に抑制的に作用することが明らかになった。今後はさらに組織学的・電気生理学的検討を加えて、ニューロン新生抑制の機序や役割を解明する。
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