研究課題
我々は、700例を超える悪性脳腫瘍に対して世界最大規模の次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子解析を行い、低悪性度グリオーマの発生、進展、悪性化におけるゲノム異常を明らかにした(Nat.Genetics, 2015)。この結果をもとに低悪性度グリオーマのWHO分類が改訂された。しかし、IDH野生型に分類される腫瘍は病理組織像、遺伝子変異が不均一なタイプであり臨床的な扱いに難渋する。研究代表者は世界最大規模コホートを詳細に検討した結果、第7番染色体長腕増幅(7q gain)と第10番染色体長腕欠失(10q loss)が予後不良因子であることが明らかになった。遺伝子座においてDMBT1 loss (10q)、MET gain (7q)に注目した。これらは、悪性転化に関わる新たなバイオマーカー、新規治療標的分子になると予想した。本課題では、この2分子に着目し、分子生物学的な機能解析を行うこととした。平成29年度は、DMBT1及びMET-shRNAを発現するベクターを作成し、それをgrade IIIグリオーマ細胞株(CHLA-03-AA (ATCC 174; CRL-3035 8482))に遺伝子導入し、in vitroにて機能解析を中心に行った。DMBT1の遺伝子導入及びMET遺伝子をノックダウンするために、高効率遺伝子導入用レトロウイルスベクターであるpDON-AI-2 DNAを使用して、DMBT1及びMET-shRNAを発現するベクターを作成した。
3: やや遅れている
平成29年度に、DMBT1およびMET-shRNAをそれぞれ発現するベクターを細胞株に遺伝子導入し、それらをマウスに導入する予定であったが、遺伝子導入に難渋し非常に時間を要した。このため、DMBT1およびMET-shRNAをそれぞれ発現するベクターを導入された細胞株を免疫不全マウスの脳に直接移植し、DMBT1を高発現もしくはMETの機能を抑制することで、生体内における腫瘍細胞の運動能を更新及び抑制できるか調べているが、免疫不全マウスの実験進行に難渋している。
In vitroの実験においては、まず作成したDMBT1及びMET-shRNA導入ベクターが効果的に導入されているかどうかを確認することが重要である。我々の研究室では他の遺伝子を発現する遺伝子導入細胞株を所有しており、すでにこれらの細胞株からその発現は確認しているため、表現型の評価には有用である。しかしながらこれらの研究が計画通り進まない場合も想定しなければならない。DMBT1およびMET-shRNAの効果が乏しい場合、それらの機能が弱いもしくは細胞への導入効率が悪いと考える。shRNAはうまく機能しない場合は、標的部位を変えて新たに作成し直すことを行う。またベクターがうまく働かない場合は、プロモーターが異なるベクターへの乗り換えを行うこととする。さらにベクターやshRNAの細胞への導入効率が悪い場合には、トランスフェクション方法(リポフェクション、エレクトロポレーション、ウイルスの変更等)を変更し、導入を試みる。それでも無効な場合には、grade IIIグリオーマ細胞株(CHLA-03-AA (ATCC& 174; CRL-3035 8482;))を別のIDH野生型細胞株に変更する。他候補の細胞株としては、IFO50435 KINGS-1やIFO50369 no.11を考えている。
使用している物品の経費が安く購入することができたため。その差額を、現在進行しているSCIDマウス作成に充てていきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Brain Tumor Pathol.
巻: 35(2) ページ: 97-105
0.1007/s10014-018-0310-7.
巻: 34(2) ページ: 91-97
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