研究課題
原発性脳腫瘍のうち、24.1%と最多を占める神経膠腫(グリオーマ)は、手術、化学療法、放射線治療を合わせた集学的治療を施行しても完治困難であり、最悪性型である膠芽腫の5年生存率は10.1%である。予後不良の理由として浸潤能の強さが挙げられるが、浸潤に関与する因子や機序も不明のままである。本研究で、我々は世界で初めてACTC1(actin alpha cardiac muscle 1)が、悪性グリオーマの浸潤能に深く関わる因子であることを同定した。ACTC1はグリオーマの悪性度に応じて発現量が高くなり、ACTC1陽性のグリオーマは初発時から対側へ浸潤し、再発時には遠隔部に腫瘤を形成していた。また、ACTC1陽性群は陰性群と比較し有意に予後不良であり、膠芽腫でも1年以上の差があることを見出した。また、年齢、日常生活活動度、細胞増殖能とは相関がなく、浸潤能に直接関わる因子であると推察された。他にも同時に、IL13-receptor alpha 2やSERPINA1などの分子、臨床画像などについても研究を進めた。最も予後と相関していたACTC1について、さらに機能的関与を検討するために、グリオーマ細胞株に発現したACTC1をsiRNAによりノックダウンし、タイムラプス法を用いて細胞株の動向を詳細に検討した。結果、ACTC1の発現を抑制することで、グリオーマ細胞の遊走能が有意に抑制されることが判明した。以上をまとめると、ACTC1はグリオーマの増殖能とは無関係の、浸潤・予後に関与する独立した因子であり、グリオーマ細胞の遊走を制御する機能的因子であることが明らかとなった。ACTC1の機能的解析を更に進めてACTC1を標的とした治療法を確立することで、予後不良なグリオーマの予後を改善できる可能性が示唆された。
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