研究課題/領域番号 |
17K10873
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
塩川 芳昭 杏林大学, 医学部, 教授 (20245450)
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研究分担者 |
市村 幸一 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (40231146)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中枢神経系悪性リンパ腫 / MYD88 / CD79b / cell free DNA |
研究実績の概要 |
我々のグループは先行研究において、中枢神経系に原発する悪性リンパ腫(Primary Central Nervous System Lymphoma; PCNSL)に特徴的な遺伝子変異のうち、MYD88のL265P変異が高頻度(76-85%)であり、同時に、B 細胞受容体(BCR)サブユニットのCD79Bの変異が高頻度(83%)である事を報告した。これらはいずれもNF-κBの恒常的活性化をもたらし、PCNSLにおけるドライバー遺伝子変異である。PCNSLではこれらMYD88, CD79B変異のいずれかを有する症例は92%に及ぶが、これらの遺伝子変異は他の頭蓋内腫瘍性病変では極めて稀であり、MYD88 L265P変異はDLBCL以外では原発性マクログロブリン血症(91%)(Treon SP, NEJM 367: 826, 2012)、chronic lymphocytic leukemia (CLL)(2-10%)、Burkitt Lymphoma (5%)、MALT L (Wang JQ, Blood Lymphat Cancer 2013:53, 2013)を除いては他疾患での報告はなく、さらに、MYD88 は L265P、CD79B は Y196 にホットスポットがあり、検出する変異が限られているという点に着目し、本変異を髄液cell free DNAから検出する事で、特に画像上鑑別が問題となる神経膠芽腫との鑑別をはじめとして、PCNSLの非侵襲的検査の開発を目標として研究を開始した。2017年(初年度)は髄液サンプルの収集を行い、またMYD88, CD79bを含む、PCNSLに高頻度な遺伝子変異の網羅的解析を目的としたターゲットシーケンスに使用する遺伝子パネルの作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
杏林大学脳神経外科にて生検術を行ったPCNSL疑い症例において、髄液サンプルの収集を行った。また、これと並行して髄液cf DNAからMYD88、CD79B以外の遺伝子変異を検証するための次世代シークエンサーを用いた網羅的解析に用いるPCNSL遺伝子パネルの設計を行った。網羅的解析に関しては過去に国立がん研究センターで使用実績のある遺伝子パネル(Nakamura T, Neuropathol Appl Neurobiol 42(3):279-290, 2016)を当初使用予定であったが、PCNSLに高頻度な遺伝子変異をより網羅的に検出するため、今回新規に作成を行った。新規の遺伝子パネルを設計するにあたり特に留意した点は、我々の先行研究での本邦におけるPCNSL症例の網羅的解析の報告(Fukumura K, Acta Neuropathol 131:865-875,2016; Nakamura T, Neuropathol Appl Neurobiol 42(3):279-290, 2016)で特に高頻度に認められた変異を網羅する事とし、中でも相互排他性を有する遺伝子に関しては優先的に含める事でPCNSLの腫瘍化に際して依存する遺伝子変異やパスウェイを特定する事、また、全身の悪性リンパ腫のうちPCNSLを含む組織型である、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫(Diffuse Large B cell lymphoma, DLBCL) 近年の網羅的解析の報告(Reddy, Cell 171(2):481-494,2017)において、予後との関連が認められ臨床的に重要と考えられる遺伝子変異を含める事とした。
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今後の研究の推進方策 |
杏林大学脳神経外科にて生検術を行ったPCNSL、ならびにPCNSL疑い症例において採取した腫瘍DNAならびに髄液cf DNAに対して上記の遺伝子パネル、ならびに現在検討中のdigital PCR、BNA clamp法を用いてMYD88、CD79B遺伝子変異の解析を行い、これらの結果を比較検討する。併せて膠芽腫など特に臨床的に PCNSL との鑑別に苦慮する頻度が高い他の腫瘍性疾 患でも本検査を施行し結果を比較する。本検討にてMYD88、CD79B変異が検出可能である事が示されれば、その結果をもとに他施設より検体を収集し、PCNSLの鑑別における有用性を検証し臨床応用を目指す。また、 過去の検体を用いて髄液microRNAやIL-10, CXCL13などの髄液サイトカインの計測を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2017年度)では、本研究の対象となる中枢神経系悪性リンパ腫(PCNSL)の患者、更には、その比較対象となる代表的悪性脳腫瘍である神経膠腫患者において、研究材料である髄液検体の採取を摘出術の際に得られる腫瘍本体の検体と主に収集することを先ず第一義に行った。また、髄液検体や血液の検体からのPCNSLで特異的に認められる遺伝子変異であるMYD88遺伝子やCD79b遺伝子などを含むPCNSLに特化した新規遺伝子解析パネルの作成のために時間を労した。加えて、liquid biopsyに有利なdigital PCR法やBNA clamp法の導入、使用検討を行ったため、予定していた経費より少額の使用に留めることができた。2年目の2018年度は、実標本を用いて、これら各種解析方法を実働し、研究を推進していく予定である。
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